間抜けな奴ほど人がいい
頼まれてマーケットでダージリンティーを買ってたときの話
マーガレットホープの銘柄指定で頼まれ露天商にその銘柄を伝えると、露天商はそれより一ランク上のキャッスルトンを強く勧めてくる
俺が既に持ってるしこれは俺が飲むわけじゃないからと断ってるのに、英語が理解できないのかしつこく勧めてくる。いいお茶を飲んでもらいたいと思ってるのか、ただ高い紅茶を買わせたいのかその男の心中は定かではないがとに角断って、指定の銘柄を準備させた
値段は少し値下げ交渉して100グラムで450ルピー
細かいのがないから俺は「悪いね」と一言付け加えて彼に1050ルピーを手渡した
すると彼はお釣に900ルピーを渡してきた
お釣りが多すぎる。本来ならお釣は600ルピーなのに彼は900ルピーを渡してきたのだから300ルピー多い計算になる
あまりにもお釣りが多いので、俺が値段を勘違いしたのかと思って一度聞きなおすとやはり450ルピー
つまり俺は300ルピーほど得した事になる。どうせいっつも客を騙すのはインド人の方なんだし、返してやる必要はないかとも思ったんだけど、この間抜けなインド人を見てると気の毒になってきて一度チャンスを与えてみることにした
「これは450ルピーだよな?俺は1050ルピー払ったんだけど、お前のくれたお釣は900ルピーだ。なんかおかしいと思わないか?」 俺は相手の反応を楽しみたかったので、あえて300ルピー多すぎるとは言わなかった
すると少し戸惑った顔をしてから、おもむろに上を向きながら計算を始めた。そして次に男が取った行動は更に俺に100ルピーを渡してきた
俺は苦笑しながら「本当にこれでいいのか?俺はおかしいと思うんだけど」
すると彼はまた戸惑った顔で「何が気に入らないんだ?お釣はあってるだろう?」「俺はそうは思わないけど。おかしいんじゃないこれ。お前がそれでいいなら俺はもう行くけど」
すると彼は更に頭の中で暗算を始め、更に100ルピーを渡してきた。これで紅茶はほぼタダになってしまった。間抜けにも程がある
俺は自分でも気づかぬうちに口調が荒くなってたみたいで、再度指摘をすると今度は泣きそうな顔になりながら「一体どうしろっていうんだよ」と終に計算する事を放り投げてしまった
彼は俺が釣りが足りなくて文句を行ってると勘違いして次から次へと計算もまともにせずに、ほいほい金を渡してくる。それだけ気が弱く、相手が怒ってると思うと気が動転して、冷静に計算すらできなくなってしまうような奴なのだ
よっぽどもう放っといて、返って来た多すぎる釣を持ってそのまま行ってしまおうとも思ったが、ここまで来たら最後まで付き合ってやろうと思って、今一度チャンスをあげた
「よく考えるんだ。この紅茶は450ルピーだろ?俺はお前に1050ルピー払ってお前は俺に1100ルピー返した。俺は多いような気がするんだがお前がそれでいいと言うならもう行くよ。でも、その前にもう一度ゆっくり考えてみろ。俺は別に怒ってないし急いでもいない。だから冷静になってみろ」
すると男はまた計算を始め、その姿を見てるとじれったくなってくるから計算機を貸してやった
そしてようやく「あっ 俺が間違ってた」と言って、俺の手元からそっと多すぎたお釣500ルピーを抜き取った
そして俺がその場を離れようとすると、紅茶を一杯ご馳走させてくれと言って、紅茶を入れ始めた。更に男は俺の買った紅茶をもっとグレードが上のキャッスルトンにただで交換してやる言った
俺がその必要は無いと、さきに述べた理由を説明しても理解できないのか、不思議そうな顔をしていた。でもこれで最初にキャッスルトンを買うように強く勧めてきたのは、ただの彼の善意だと分かっただけでも満足だった
そして帰り際に何か提案してきたのだが、英語が酷すぎて何を言ってるのか分からない。辛うじてわかったのが、次の日の朝、一緒にあるところに行こう、俺はバイクを持っているから連れて行ってやる、と、いうような内容だったと思う
しかし一番重要な、何処に何をしに行くか、という事がわからない。それに俺はインド人と外で待ち合わせはしないことにしてるので、男が待ち合わせの時間と場所を指定してきたときに、わからないから俺のホテルまで迎えに来るように伝えた
来れば行くし来なければ行かなければいい。どっちに転んでも俺が骨折り損をする事はない
約束の時間は朝の6時で俺が起きたのが8時だったから結局彼が来たのか来なかったのかは知らないが、それもまた縁なのでそれでよしとした
そしてその日の夕方ホテルをチェックアウトして、コルカタに向う電車に乗るためNJPステーションに向った
俺の今回のチケットは3ACと呼ばれるもの
前の日記で軽く触れたかも知れないが、インドの電車にはセカンドクラス別名ジェネラルからファーストクラスまで約7種類近いシートが存在し、値段もそのクオリティーよって様々だ
主にバックパッカーと呼ばれる外国人ツーリストが乗ることになるのがスリーパー席か3ACとよばれるエアコン付の寝台車両
インドの長距離列車は殆どが深夜発のなで、必然的に寝台席を選ぶことになるのだ
そしてこの寝台車両とAC付の寝台車両の大きな違いは文字通りACが付いているか付いていないかの違いなんだけど、実は一番大きな違いはそこではない
インドの車両のクラスの違いは、クラスが上がれば上がるほどシートは少なくなり料金が高くなり、下に下がれば下がるほどシート数は多くなり料金も安くなる
それすなわちインド社会の経済ピラミッドそのもの、しいては未だにインドに残る悪習カーストの表れと言っても過言ではない
そしてACの付く席から料金が急に跳ね上がる
例えば今回俺が取ったチケット、NJPからコルカタまでの3ACチケット750ルピーに対して、普通の寝台は250ルピー。約3倍も値段が跳ね上がるのだ。この上には2AC ファーストチェアやファースト寝台などがあるが、一番高い席は飛行機と同じくらいするという事だ
つまり一般寝台とAC寝台では乗客が全然違う。一般寝台には普通の格好をしたインド人も乗ってるが、見るからに怪しい奴、汚い服を着た奴、無賃乗車、なんでもありだ。盗難も殆どがこの車両で発生している
それに比べて3ACに乗ってるインド人は身なりも綺麗だし、いきなり話しかけてきたり、人の事を興味本位でじろじろ見てきたりしない。話しかければもちろん話に応じるが、その対応も実に礼儀正しい
そして一般寝台とAC寝台は鍵付きのドアで仕切られているので、無賃乗車や他の車両の人間が入ってくることはできない。それすなわち寝ている間の盗難の確率は格段に下がるという事だ
その他にもAC寝台になると、車両は綺麗だし、寝る時間になるとシーツや枕などの寝具が一人一人配られるのだ
今の時期のインドの夜は少し肌寒いくらいでACなんて必要ないけど、これらの理由からAC席を好んで選択するツーリストも多く、俺もつい最近からこのAC席に嵌りだした
少々高いが金をケチって高いものを盗まれるより、始めから少しお金を払ってその確率を下げる。大事の前の小事、小さな虫を殺して大きな虫を生かす。それに今まで神経質な俺は一般寝台で寝れた験しが無かったのに、ACだと少し眠れるようになった
これだけの恩恵があると、例え3倍の値段だとしても払う価値はあるし一概に贅沢とは言えないだろう
チケットが高い分逃したときの被害も大きくなるので、乗る時は慎重にならざるを得ない。ましてや以前一度やらかしているので、今回は自分で発着ホームを調べた上で、更に10人近いインド人に尋ねて確認して乗った
俺のボックス席には4人の身なりの綺麗なインド人とドイツ人の年配の女性ドロシーが既に乗っていた
白髪のドロシーはゆっくりとした喋り方で、相手を安心させる雰囲気を持っていて、寝る前の話し相手としては最適であった
列車は翌日の朝30分遅れでコルカタのシアルダー駅に到着。ドロシーも俺も同じ目的地、コルカタ一のツーリスト街のサダルストリートだったからシェアタクシーを提案したら、駅のクーポンタクシーを利用するといって俺にもそれに乗るように言った。一人でも2人でも料金は同じだからと言ってタクシー代を払ってくれた
駅の広場に出るといつもとは違い、駅の広場はリキシャではなく黄色いタクシーが無秩序に溢れ返っている。そしていつものように、プリペイドカウンターを探すドロシーにタクシーの客引きが近寄ってくる
客引きがドロシーに話しかけた瞬間に彼女の顔が急に険しくなり、声も幾分低くなり対応する。まだ向こうが何か言う前からほぼ怒ったような対応に切り替わる。信じられなかった、あんなに穏やかで優しい彼女の豹変振りが
でも、その豹変振りを見えていると、話題には出なかったがインドで相当嫌な思いをしているのだろうという事が容易に想像できた。ドロシーもインドは初めてじゃなく、30代の頃から何回も来ているらしい、そしてその経験上からこの対応になったということだ。ある意味、彼女をここまで変えたインド人もなかなかの技量を持った民族である
客引きにプリペイドを使うからと断るドロシーに今日は休みだという客引き。もちろん俺もドロシーもそんな嘘は信じない。しかし、この時間帯は本当にやってなくて、結局最初に声を掛けてきたタクシーに200ルピーで乗ることにした。高いとは思ったが俺が払うわけではないので料金交渉に口は出さなかった
タクシーの窓から流れていく街の風景を眺めていると、インドのいつもの光景が広がっていた。歩道に無秩序に並ぶ日本の縁日のような屋台に横に転がっている人と犬とゴミの山。
インドの北の端っことは人も街並みも随分と違うんだなと思っていたら、タクシーが急に赤信号の中程で急ブレーキを踏んだ。その先には白い制服のようなものを着た男が手を上げて立っていた
恐らくタクシーが赤信号を無視しようとしたら、警官を発見して急ブレーキを踏んだのだろう
警官らしき男が走りよってくると、ベンガル語でタクシーの運転手と話し始め、1分後には口論に発展していた
運転手はギリギリの所で止まったから信号無視にはならないだろうと意義を唱えてる様にも見えた。しかし、警官の方もゆずる様子はなく、その様子をうんざりした顔でドロシーが眺めていた
するとまた同じ方向から信号無視をしたタクシーが通り過ぎようとして、すかさず警官が停止させた
また口論が始まるのかと思って眺めていると、タクシーの運転手の手の中には何かが握られている
それを警官に差し出すと、警官はまるでマラソンランナーが給水所で水を取るように爽やかな顔をしてさっと手の中の物を受け取ったかと思うと、すぐにそのタクシーの運転手を行かせてしまった
俺「賄賂だね」ドロシー「受け取ったわね」
それを見ていた客も、先に捕まった俺たちのタクシーの運転手もごくごく当たり前のようにことの成り行きを見ているだけだった
俺はまだ賄賂を請求されたり、自分から支払ったりしことは今のところないが、賄賂とはもっと後ろめたさを十分に出しながら、こっそりとやりとりするものだと思っていた
それがあんなに爽やかな顔をして受け取っているのを見せられると、まるではなから法律に規定されているのではないだろうかとさえ思えてくる
なぜ俺たちのタクシーは賄賂払わないのかは知らないが、賄賂を渡したタクシーが行ってしまうと再び口論が再開された
いくら待っても話は平行線を辿っているようで終わる様子も見受けられなかったので、ドロシーに他のタクシーを拾うか歩いていこうと言って、トランクから荷物をとりだしていると、警官が慌てて走りよってきて「あと一分だ 一分で終わらすから荷物を戻して車の中で待っててくれ」と、促された
なぜタクシーの運転手ではなく警官が焦って客を引き止めるのか、なにか裏がありそうだとは思ったが、ベンガル語を理解できない俺たちでは知るすべも無かった
警官は宣言どおり数分後にタクシーを開放して、俺たちは無事にサダルストリートにたどり着いた
ドロシーは電話で事前に宿を予約してて、すぐにチェックインできた。俺はその部屋に荷物を置かせてもらい、自分の宿を探しに行ったが、前日の電車でほとんど寝れなかったせいか体が少しだるく動き回りたくなかったので、結局ドロシーの横にある350ルピーの安宿にチャックインした
俺はアンダマン島へのトランジットで一日だけの滞在予定だったので特に予定もなく、流れでドロシーの観光に付き合った
サダルストリート周辺はビジネス街のようで、丁度日曜だったその日は殆どの店がシャッターを下ろしていて、静かなものだった
ドロシーについてパークストリートやマザーハウスなどを周っている内に体に違和感を感じ始めた
寒くも無いのに感じる寒気や、体の毛穴が全て開いてしまったかのようなすうすうする感じ、重いとも軽いとも感じて取れる足取り
ついにはマザーハウスまでたどり着いたときには懈怠感と吐き気を感じるようになっていた
ドロシーが中の文献を読み漁っている間俺は表のベンチで死んだように座っていたが体調はどんどん悪くなっていき、暑くもないのに汗まで出始めた
帰り際に俺の異変に気づいたドロシーが荷物を持ってあげるといってくれた。自分の2倍近い年を取ったそれも女性に荷物をもたせるのは気が引けたが、俺より身長が頭二つ分ある上にトレッキングで鍛えたしっかりした足腰を見てると、甘えてもいいんではないかと思えてきた。特に体が弱っている俺からは余計に大きく見えた彼女に結局荷物を持ってもらった
俺はそのまま薬局で抗生物質を買い、宿に戻りベッドに頭から倒れこんだ
夜の9時に目が覚め一度体を起こすが体調は相変わらずだった。外に出る気力も無かったが喉が渇いたので近くの酒屋でビールと水を買って部屋まで戻ってきた。ビールと薬を飲んで再び深い眠りに落ちた
次に目が覚めたのは朝の9時ごろ。幾分体調が良くなったように感じベッドから体を起こしてみたが、暫くすると昨日と何も変わっていないことにすぐに気づいた
しかしどんなにだるくてもホテルからは12までにチェックインしなくてはいけない。フライトが次の日の早朝にあったため、一晩空港で過ごしそのまま飛行機に乗るつもりでいたからだ。しかしこの体調で宿の外で一体どうすればいいのだろうか?
そこでまたドロシーに助けてもらうことにした。旅を始めた頃ならこんなずうずうしいお願いを会ったばかりの人に頼むことも無かったろうに、旅を続けていくうちにそんな事全く気にしなくなっていた
彼女の部屋に荷物を夜まで置かせてもらい、昼間の彼女がいない間も部屋で休ませてもらった。特にこの時期のコルカタの夜は結構冷える。この体調でコールドシャワーなんてとても浴びる気になれないので、彼女の部屋で借りたホットシャワーには大分助けられた気持ちになった
そのままバナナと薬を飲み、ベッドを借りて夜のフライトまでぐっすりと眠りについた
頼まれてマーケットでダージリンティーを買ってたときの話
マーガレットホープの銘柄指定で頼まれ露天商にその銘柄を伝えると、露天商はそれより一ランク上のキャッスルトンを強く勧めてくる
俺が既に持ってるしこれは俺が飲むわけじゃないからと断ってるのに、英語が理解できないのかしつこく勧めてくる。いいお茶を飲んでもらいたいと思ってるのか、ただ高い紅茶を買わせたいのかその男の心中は定かではないがとに角断って、指定の銘柄を準備させた
値段は少し値下げ交渉して100グラムで450ルピー
細かいのがないから俺は「悪いね」と一言付け加えて彼に1050ルピーを手渡した
すると彼はお釣に900ルピーを渡してきた
お釣りが多すぎる。本来ならお釣は600ルピーなのに彼は900ルピーを渡してきたのだから300ルピー多い計算になる
あまりにもお釣りが多いので、俺が値段を勘違いしたのかと思って一度聞きなおすとやはり450ルピー
つまり俺は300ルピーほど得した事になる。どうせいっつも客を騙すのはインド人の方なんだし、返してやる必要はないかとも思ったんだけど、この間抜けなインド人を見てると気の毒になってきて一度チャンスを与えてみることにした
「これは450ルピーだよな?俺は1050ルピー払ったんだけど、お前のくれたお釣は900ルピーだ。なんかおかしいと思わないか?」 俺は相手の反応を楽しみたかったので、あえて300ルピー多すぎるとは言わなかった
すると少し戸惑った顔をしてから、おもむろに上を向きながら計算を始めた。そして次に男が取った行動は更に俺に100ルピーを渡してきた
俺は苦笑しながら「本当にこれでいいのか?俺はおかしいと思うんだけど」
すると彼はまた戸惑った顔で「何が気に入らないんだ?お釣はあってるだろう?」「俺はそうは思わないけど。おかしいんじゃないこれ。お前がそれでいいなら俺はもう行くけど」
すると彼は更に頭の中で暗算を始め、更に100ルピーを渡してきた。これで紅茶はほぼタダになってしまった。間抜けにも程がある
俺は自分でも気づかぬうちに口調が荒くなってたみたいで、再度指摘をすると今度は泣きそうな顔になりながら「一体どうしろっていうんだよ」と終に計算する事を放り投げてしまった
彼は俺が釣りが足りなくて文句を行ってると勘違いして次から次へと計算もまともにせずに、ほいほい金を渡してくる。それだけ気が弱く、相手が怒ってると思うと気が動転して、冷静に計算すらできなくなってしまうような奴なのだ
よっぽどもう放っといて、返って来た多すぎる釣を持ってそのまま行ってしまおうとも思ったが、ここまで来たら最後まで付き合ってやろうと思って、今一度チャンスをあげた
「よく考えるんだ。この紅茶は450ルピーだろ?俺はお前に1050ルピー払ってお前は俺に1100ルピー返した。俺は多いような気がするんだがお前がそれでいいと言うならもう行くよ。でも、その前にもう一度ゆっくり考えてみろ。俺は別に怒ってないし急いでもいない。だから冷静になってみろ」
すると男はまた計算を始め、その姿を見てるとじれったくなってくるから計算機を貸してやった
そしてようやく「あっ 俺が間違ってた」と言って、俺の手元からそっと多すぎたお釣500ルピーを抜き取った
そして俺がその場を離れようとすると、紅茶を一杯ご馳走させてくれと言って、紅茶を入れ始めた。更に男は俺の買った紅茶をもっとグレードが上のキャッスルトンにただで交換してやる言った
俺がその必要は無いと、さきに述べた理由を説明しても理解できないのか、不思議そうな顔をしていた。でもこれで最初にキャッスルトンを買うように強く勧めてきたのは、ただの彼の善意だと分かっただけでも満足だった
そして帰り際に何か提案してきたのだが、英語が酷すぎて何を言ってるのか分からない。辛うじてわかったのが、次の日の朝、一緒にあるところに行こう、俺はバイクを持っているから連れて行ってやる、と、いうような内容だったと思う
しかし一番重要な、何処に何をしに行くか、という事がわからない。それに俺はインド人と外で待ち合わせはしないことにしてるので、男が待ち合わせの時間と場所を指定してきたときに、わからないから俺のホテルまで迎えに来るように伝えた
来れば行くし来なければ行かなければいい。どっちに転んでも俺が骨折り損をする事はない
約束の時間は朝の6時で俺が起きたのが8時だったから結局彼が来たのか来なかったのかは知らないが、それもまた縁なのでそれでよしとした
そしてその日の夕方ホテルをチェックアウトして、コルカタに向う電車に乗るためNJPステーションに向った
俺の今回のチケットは3ACと呼ばれるもの
前の日記で軽く触れたかも知れないが、インドの電車にはセカンドクラス別名ジェネラルからファーストクラスまで約7種類近いシートが存在し、値段もそのクオリティーよって様々だ
主にバックパッカーと呼ばれる外国人ツーリストが乗ることになるのがスリーパー席か3ACとよばれるエアコン付の寝台車両
インドの長距離列車は殆どが深夜発のなで、必然的に寝台席を選ぶことになるのだ
そしてこの寝台車両とAC付の寝台車両の大きな違いは文字通りACが付いているか付いていないかの違いなんだけど、実は一番大きな違いはそこではない
インドの車両のクラスの違いは、クラスが上がれば上がるほどシートは少なくなり料金が高くなり、下に下がれば下がるほどシート数は多くなり料金も安くなる
それすなわちインド社会の経済ピラミッドそのもの、しいては未だにインドに残る悪習カーストの表れと言っても過言ではない
そしてACの付く席から料金が急に跳ね上がる
例えば今回俺が取ったチケット、NJPからコルカタまでの3ACチケット750ルピーに対して、普通の寝台は250ルピー。約3倍も値段が跳ね上がるのだ。この上には2AC ファーストチェアやファースト寝台などがあるが、一番高い席は飛行機と同じくらいするという事だ
つまり一般寝台とAC寝台では乗客が全然違う。一般寝台には普通の格好をしたインド人も乗ってるが、見るからに怪しい奴、汚い服を着た奴、無賃乗車、なんでもありだ。盗難も殆どがこの車両で発生している
それに比べて3ACに乗ってるインド人は身なりも綺麗だし、いきなり話しかけてきたり、人の事を興味本位でじろじろ見てきたりしない。話しかければもちろん話に応じるが、その対応も実に礼儀正しい
そして一般寝台とAC寝台は鍵付きのドアで仕切られているので、無賃乗車や他の車両の人間が入ってくることはできない。それすなわち寝ている間の盗難の確率は格段に下がるという事だ
その他にもAC寝台になると、車両は綺麗だし、寝る時間になるとシーツや枕などの寝具が一人一人配られるのだ
今の時期のインドの夜は少し肌寒いくらいでACなんて必要ないけど、これらの理由からAC席を好んで選択するツーリストも多く、俺もつい最近からこのAC席に嵌りだした
少々高いが金をケチって高いものを盗まれるより、始めから少しお金を払ってその確率を下げる。大事の前の小事、小さな虫を殺して大きな虫を生かす。それに今まで神経質な俺は一般寝台で寝れた験しが無かったのに、ACだと少し眠れるようになった
これだけの恩恵があると、例え3倍の値段だとしても払う価値はあるし一概に贅沢とは言えないだろう
チケットが高い分逃したときの被害も大きくなるので、乗る時は慎重にならざるを得ない。ましてや以前一度やらかしているので、今回は自分で発着ホームを調べた上で、更に10人近いインド人に尋ねて確認して乗った
俺のボックス席には4人の身なりの綺麗なインド人とドイツ人の年配の女性ドロシーが既に乗っていた
白髪のドロシーはゆっくりとした喋り方で、相手を安心させる雰囲気を持っていて、寝る前の話し相手としては最適であった
列車は翌日の朝30分遅れでコルカタのシアルダー駅に到着。ドロシーも俺も同じ目的地、コルカタ一のツーリスト街のサダルストリートだったからシェアタクシーを提案したら、駅のクーポンタクシーを利用するといって俺にもそれに乗るように言った。一人でも2人でも料金は同じだからと言ってタクシー代を払ってくれた
駅の広場に出るといつもとは違い、駅の広場はリキシャではなく黄色いタクシーが無秩序に溢れ返っている。そしていつものように、プリペイドカウンターを探すドロシーにタクシーの客引きが近寄ってくる
客引きがドロシーに話しかけた瞬間に彼女の顔が急に険しくなり、声も幾分低くなり対応する。まだ向こうが何か言う前からほぼ怒ったような対応に切り替わる。信じられなかった、あんなに穏やかで優しい彼女の豹変振りが
でも、その豹変振りを見えていると、話題には出なかったがインドで相当嫌な思いをしているのだろうという事が容易に想像できた。ドロシーもインドは初めてじゃなく、30代の頃から何回も来ているらしい、そしてその経験上からこの対応になったということだ。ある意味、彼女をここまで変えたインド人もなかなかの技量を持った民族である
客引きにプリペイドを使うからと断るドロシーに今日は休みだという客引き。もちろん俺もドロシーもそんな嘘は信じない。しかし、この時間帯は本当にやってなくて、結局最初に声を掛けてきたタクシーに200ルピーで乗ることにした。高いとは思ったが俺が払うわけではないので料金交渉に口は出さなかった
タクシーの窓から流れていく街の風景を眺めていると、インドのいつもの光景が広がっていた。歩道に無秩序に並ぶ日本の縁日のような屋台に横に転がっている人と犬とゴミの山。
インドの北の端っことは人も街並みも随分と違うんだなと思っていたら、タクシーが急に赤信号の中程で急ブレーキを踏んだ。その先には白い制服のようなものを着た男が手を上げて立っていた
恐らくタクシーが赤信号を無視しようとしたら、警官を発見して急ブレーキを踏んだのだろう
警官らしき男が走りよってくると、ベンガル語でタクシーの運転手と話し始め、1分後には口論に発展していた
運転手はギリギリの所で止まったから信号無視にはならないだろうと意義を唱えてる様にも見えた。しかし、警官の方もゆずる様子はなく、その様子をうんざりした顔でドロシーが眺めていた
するとまた同じ方向から信号無視をしたタクシーが通り過ぎようとして、すかさず警官が停止させた
また口論が始まるのかと思って眺めていると、タクシーの運転手の手の中には何かが握られている
それを警官に差し出すと、警官はまるでマラソンランナーが給水所で水を取るように爽やかな顔をしてさっと手の中の物を受け取ったかと思うと、すぐにそのタクシーの運転手を行かせてしまった
俺「賄賂だね」ドロシー「受け取ったわね」
それを見ていた客も、先に捕まった俺たちのタクシーの運転手もごくごく当たり前のようにことの成り行きを見ているだけだった
俺はまだ賄賂を請求されたり、自分から支払ったりしことは今のところないが、賄賂とはもっと後ろめたさを十分に出しながら、こっそりとやりとりするものだと思っていた
それがあんなに爽やかな顔をして受け取っているのを見せられると、まるではなから法律に規定されているのではないだろうかとさえ思えてくる
なぜ俺たちのタクシーは賄賂払わないのかは知らないが、賄賂を渡したタクシーが行ってしまうと再び口論が再開された
いくら待っても話は平行線を辿っているようで終わる様子も見受けられなかったので、ドロシーに他のタクシーを拾うか歩いていこうと言って、トランクから荷物をとりだしていると、警官が慌てて走りよってきて「あと一分だ 一分で終わらすから荷物を戻して車の中で待っててくれ」と、促された
なぜタクシーの運転手ではなく警官が焦って客を引き止めるのか、なにか裏がありそうだとは思ったが、ベンガル語を理解できない俺たちでは知るすべも無かった
警官は宣言どおり数分後にタクシーを開放して、俺たちは無事にサダルストリートにたどり着いた
ドロシーは電話で事前に宿を予約してて、すぐにチェックインできた。俺はその部屋に荷物を置かせてもらい、自分の宿を探しに行ったが、前日の電車でほとんど寝れなかったせいか体が少しだるく動き回りたくなかったので、結局ドロシーの横にある350ルピーの安宿にチャックインした
俺はアンダマン島へのトランジットで一日だけの滞在予定だったので特に予定もなく、流れでドロシーの観光に付き合った
サダルストリート周辺はビジネス街のようで、丁度日曜だったその日は殆どの店がシャッターを下ろしていて、静かなものだった
ドロシーについてパークストリートやマザーハウスなどを周っている内に体に違和感を感じ始めた
寒くも無いのに感じる寒気や、体の毛穴が全て開いてしまったかのようなすうすうする感じ、重いとも軽いとも感じて取れる足取り
ついにはマザーハウスまでたどり着いたときには懈怠感と吐き気を感じるようになっていた
ドロシーが中の文献を読み漁っている間俺は表のベンチで死んだように座っていたが体調はどんどん悪くなっていき、暑くもないのに汗まで出始めた
帰り際に俺の異変に気づいたドロシーが荷物を持ってあげるといってくれた。自分の2倍近い年を取ったそれも女性に荷物をもたせるのは気が引けたが、俺より身長が頭二つ分ある上にトレッキングで鍛えたしっかりした足腰を見てると、甘えてもいいんではないかと思えてきた。特に体が弱っている俺からは余計に大きく見えた彼女に結局荷物を持ってもらった
俺はそのまま薬局で抗生物質を買い、宿に戻りベッドに頭から倒れこんだ
夜の9時に目が覚め一度体を起こすが体調は相変わらずだった。外に出る気力も無かったが喉が渇いたので近くの酒屋でビールと水を買って部屋まで戻ってきた。ビールと薬を飲んで再び深い眠りに落ちた
次に目が覚めたのは朝の9時ごろ。幾分体調が良くなったように感じベッドから体を起こしてみたが、暫くすると昨日と何も変わっていないことにすぐに気づいた
しかしどんなにだるくてもホテルからは12までにチェックインしなくてはいけない。フライトが次の日の早朝にあったため、一晩空港で過ごしそのまま飛行機に乗るつもりでいたからだ。しかしこの体調で宿の外で一体どうすればいいのだろうか?
そこでまたドロシーに助けてもらうことにした。旅を始めた頃ならこんなずうずうしいお願いを会ったばかりの人に頼むことも無かったろうに、旅を続けていくうちにそんな事全く気にしなくなっていた
彼女の部屋に荷物を夜まで置かせてもらい、昼間の彼女がいない間も部屋で休ませてもらった。特にこの時期のコルカタの夜は結構冷える。この体調でコールドシャワーなんてとても浴びる気になれないので、彼女の部屋で借りたホットシャワーには大分助けられた気持ちになった
そのままバナナと薬を飲み、ベッドを借りて夜のフライトまでぐっすりと眠りについた
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