2014年1月31日金曜日

南インドの玄関でいきなりつまづく

コルカタの飲み仲間アレックスと一旦別れて列車で約8時間南に下ったプーリーに移動した

宿は決まっていた。日本人宿のサンタナ

なぜ日本人宿を避けてる俺がわざわざプーリーのサンタナを狙い撃ちしたかと言うと、理由は二つある

まず一つは破格の宿泊費。よく覚えてないけど確か200ールピ前後?あれ150だったっけ?に、朝食と夕食が含まれており、更に一日に2回チャイのサービスまでついているのだ

他の宿と比べても宿泊費が破格な上に食事がついていて、その上日本食が食べれるのだ、聞いてるだけでよだれが垂れてしまった

もう一つの理由はインドやネパールにチェーン展開するサンタナ宿、その本家本元がここらしくて、既に数十年の歴史があるのだとか。そこに興味が沸いてしまったのもあるし、3ヶ月近く日本語を喋っていなかったので、ちょっとだけ日本語が恋しくなっていたってのも手伝ったのかもしれない

チェックインするとまずはどこの部屋がいいか自由に選べる。ドミトリーか個室にするか。おもしろいのがどこの部屋にしても料金は一律。普通はドミトリーの方が個室より安いんだけど、ここはどこも同じ料金。俺はドミトリーが嫌いなのでベッドが二つある個室を選んだんだけど、満室になると他の客とシェアして使ってもらうことになるとの事だった。成る程上手くできいる

到着したのがまだ朝だったので、荷物を部屋に放り投げて鍵をかけたら、そのままビーチに出かけた

プーリーは南インドの入り口のような町で、気候は北インドとそうは変わらない。昼間は日本の初夏くらいの蒸し暑さで、夜は少し冷え込み半袖だと肌寒い程度。ACがなくてもすごし易い気候といえる

宿の裏は漁村を挟んですぐにビーチになっており、そのビーチ沿いにゲスハウスが並んでいる。そのゲストハウスの数がこの街の価値を示していると言ってもいいかもしれない。サンタナはそのゲストハウスの一番端っこに位置しているのだ

ビーチに行くために漁村を抜けると早速うっとおしい子供が写真写真とせがんでくるいつも通りのパターン。追い払いたいとこだけど自分も子供だったころはもっと酷いがきだったらしいので写真くらいは撮ってやるが、3歩歩くたびに次から次へと新しいガキが登場する。あいにく俺は鶏ではない、3歩歩いたら忘れると思ってるこいつらは俺を見くびりすぎである。更にはそこにどさくさに紛れて大人まで混じってくるのだから、最終的には全て無視することになるのだ
            




漁村自体は台風が来たらすぐに吹っ飛んでしまいそうな小汚い家屋、と言うよりは小屋が建ってるだけだが侮ってはいけない
                  


           
というのも、それこそ昔は海の魚は不浄のものとして普通のインド人は食べなかったので、獲った魚は自分達で食べるだけで、中々現金収入につなげるのが難しくて、大変貧しい暮らしを強いられていたらしいのだ

それが今では、南インド人は普通に魚を食べるようになったので村も少しずつ潤いだし、モーター付きの船を導入してからは、貯金する奴まで出てきたらしい。つまり、漁村の見かけ自体はスラム街のバラック同様貧乏臭が漂っているが、その実なかなか羽振りはいいらしい。それが本当にここ最近の話。だからあと10年もするとこの漁村も姿を変えているかも知れない

そしてこのビーチ最大の問題が排泄物の処理。わかりやすくいうとうんちだ!!


上の写真を見るとわかるとおり、大人子供関係なく皆ビーチで糞をしている。ビーチにしゃがんでる奴がいたら間違いなくうんこだ

うっかりしてると踏んでしまうくらいビーチはウンコだらけ。そのうんこだらけの砂浜に海から引き上げた網を広げて魚をより分ける漁師達
                

俺も気をつけてビーチを歩いていたんだけど、踏んでしまった。どういうわけかサンダルの中に何かが入ってきた。。。もしかしたらウンコじゃなくてただ泥が入っただけかもしれないと思って臭いをかいで見るとまるでウンコのような臭いがするではないか!!どこをどうやったらサンダルの中にウンコの臭いのする泥が入ってくるのか、理解に苦しみはしたものの、幸い目の前に海のように大きなトイレがあったのでそこに足を突っ込んでとりあえず難は去った

ウンコを避けつつ、モンスターを倒し、竜王を倒しバラモスを倒してようやく裏の世界に到達、それから一キロほど歩くと今度はウンコビーチから普通のインド人ツーリストでごった返すビーチへと到達

波が泥を巻き上げ海は全然青くない、この茶色は本当に泥なのだろうか?と、思うととても足すらつける気にならない。だってさっきのウンコビーチの隣だし、仕切りがあるわけじゃないし・・・・

写真写真とせがんで来るインド人を完全に無視して(大人は容赦なく無視します)更にビーチを進むと、今度はビーチ沿いにメインストリートが寄り添うように続いていた。

砂の上を歩くのも疲れたのでメインストリートを歩くと、道路の反対側に大きなビルに囲まれた空き地があって、この暑いのに人々が焚き火をしている。それも一箇所ではなく空き地のいたる所で火を焚いて棒の様な物で焚き火をつついている

何かの儀式でもやってるのだろうかと思った俺は、確認するために空き地に入っていった

焚き火を遠目から見ると、焚き火の中からごぼうのようなものが2本飛び出していた。ごぼうのバーベキューでもやっているのだろうか?っていうか、インドでごぼう見たの初めてだぞ

更に近づいていくと、そのごぼうには毛が生えていて、九の字におれて焚き火から飛び出している。ごぼう・・・確かうっすらだけど毛が生えてるよな。でもごぼうって指とか生えてったっけ?

そのごぼうには人の足のように先っちょは靴の形をしており、そこには5本づつ指が生えているのだ。まるで人の足のようなごぼうだ・・・じゃなくてごぼうのような人の足だった・・・・・

ごぼうのバーベキューじゃなくて人のバーベキューか・・・「先生!!ここで人間焼いてる人がいまーーす!!」と、叫びそうになったが、よくよく考えるとここは火葬場なのかもしれない

しかし、これは不意打ち過ぎる。ごぼうのバーベキューかと思っていたのもが人のバーベキューだったのだ。ショックを受けすぎた俺は気分が悪くなってそのまま宿に引き返した

次の日は宿で酒を買えるというので、朝から前日の続きとして迎え酒を胃に流し込んでたらあっという間に一日が終わってしまった。プーリーの郊外にはいろいろと観光スポットがあるんだけど、一人で行くのも億劫だったので友達が来るまでは宿の周辺しか出歩かなかった

そう、実はこの宿に後から来ることになっていたアレックスを呼んでいたのだ。安くて食事が付くという話をしたら泊まりたいと、俺が日本人しかいないし、そういう雰囲気だけど大丈夫かと確認しても、泊まりたがっていたので呼んだのだ

ちなみにサンタナ宿は基本外人は宿泊できないけど、泊り客の友達に限り国籍関係無しに宿泊できるとの事だった

俺が宿泊してる時期のサンタナの客は何か目的ややることを持っている人が多かった

ボランティアに来てる子、言語を習いに来てる子、スモーキングに来てる子、そうじゃない宿泊客は数日滞在してとっとと次の街に行ってしまうので、俺の事を終日相手にしてくれる人はいない。それだけにアレックスの到着が待ち遠しかった

アレックスは到着すると早速ウンコビーチへと一人で出かけていった。おもしろいので特にウンコに関する情報は提供しなかった

数十分後に帰ってくると予想どおり「Fu○k fu○k fu○k」を連発、「海はキタねーしビーチの50%は糞で構成されてるし、ガキはペンをよこせってうるせーし 最悪だったぜ」と文句を糞のように垂れ流していた


サンタナでは朝食 夕食のほかに有料でランチを頼む事ができる。このランチがまたガチの日本の家庭料理なのだ。値段は大体の料理が一皿80~150ルピー。その他にもスパゲッティやピザとか日本で一般的に食べられてる料理がかなりバリエーション裕に取り揃えられており、味は冷静に判断すると普通なのだが、海外で日本食を真似した偽日本料理を食べなれた俺からしてみると、舌鼓を打たざるを得なかった

アレックスも敢えてイタリア料理や他の洋食を避け、俺にお勧めを尋ねてから日本食をすすんで食べていたが、かなり気に入ってた模様だった。アレックスは基本的に美味しくない物を美味しいというタイプではないので

他にも俺が気に入っていたのは刺身だ。これはスーパーの特売で売っているような冷凍マグロなんかよりよっぽど美味しい。そのかわりその刺身を食べるときだけは、ウンコビーチの存在を頭の中から消去する必要があった

他にも宿の設備としては、有料のホットシャワーやランドリーマシーンの使用、酒やつまみ、ちょっとした日用品は全て宿からでず買える様になっているのだ。そしてその購買システムが日本伝統の無人販売のようになっていて、シャワーを使ったり、何か売り物を取ったりした場合その後に、壁に貼ってある表に自分の名前と内容を記入する自己申告制になっている

こんなやり方で誰かちょろまかしたりする奴はいないのだろうかと疑問はあったが、俺もアレックスもせっせと毎日表に記入してたし、いちいち小銭を用意する必要がなく面倒くさくないので、宿の外に出にくくなる原因となっていった

アレックスは基本的に自分からどっかに行こうと誘ってくることは無かったが、俺の誘いにはいつもついて来る。酒の誘いはのぞいてだが。

なぜ飲み友達のアレックスが俺ののみの誘いを断っていたかと言うと、コルカタに一人でいる間に痔を患ったらしいのだ。メールで英語で痔になったと送られてきた時に英語の横にかっこで痔と漢字が添付されてるのを見たときは思わず飲んでいた紅茶を霧のように噴出してしまった

他にもプーリーに滞在中は郊外の世界遺産や、少し離れたビーチに夕陽を眺めに行ったりと毎日少しずつ観光を消化していった。そして帰るときにアレックスは必ず「俺たちの日本人ハウスに帰ろう」という。相当気に入ってるらしく、誰が教えた訳でもないのに日本語も少しずつ覚えている

サンタナにいるアレックスをみてるとまるで日本でホームステイしている外人のように見える

こうして長居するつもりは無かったのだが、列車のチケットが中々取れないのと、居心地の良さが手伝って滞在は一日一日と長引いていったのであった

そして滞在も一週間を数える最後のよる、アレックスと同じ滞在客の日本人女子アユミことボストンを誘って3人でナイトマーケットに出かけた

なぜボストンかと言うと、ナイトマーケットに行くときにボストンがよれよれのボストンと正面にでかく書かれたパーカーを着てきて、それをアレックスが大声でボストンと読み上げて以来彼女の名前はボストンに改名されたのだ

ナイトマーケットはリキシャで10分程度。ナイトマーケットが近づいてくると、遠くの方に見えるビーチが夜の空港の滑走路のようにみえた。屋台の白い照明が誘導灯のように無数に並列に並び、見えなくなるくらいまで続いていりる。今にも飛行機が飛び立つ音が聞こえてきそうだったが、近づくにつれて聞こえて来る音は、人々の話し声や笑い声物売りが声を張り上げるまさに祭りの音

よく英語で全然違うと言う時に「It's like night and day」と表現するが、正に昼と夜の違いは砂漠に忽然と現れたパラダイスのようで、昼間は何も無かった少し広めのビーチに、今は無数のみやげ物屋やフード屋台が軒を連れねて賑っている

ボストンは早速土産をあさり出し、俺とアレックスはただ冷やかすだけ

「日本人女子は買い物がすきなんだよ」「イタリア人女子も同じだよ、世界中一緒だろ」と言っていたアレックスがペンを束で売っている店の前で足をとめた

1ダースからのペンを取って値段を聞いてるアレックスをみてピンと来た。実はアレックスは文句をいいつつも毎日のようにウンコビーチに一人で通っていたのは知っていた

「ははーん、お前さてはそれ漁村のガキ共にせがまれて買ってやろうと思ってんだろう??」「いや・・・別に。結構高いんだな、他で探すよ」とそれ以上は何も言わずペンの束を元に戻した。きっとこっぱずかしんだろうな、じぶんのキャラと合わない事をすると

ビーチの赤茶けた砂を踏みしめながら露店の間を更に進むと、そこには少し小さめな観覧車があった。他にも遊園地お馴染みのちょっとしたミニアトラクションンのような物が5種類ほど稼動してた
               

しかし、様子がおかしい。観覧車が動き出したかと思うと、富士急のアトラクションン、ドドンパのような勢いで加速をはじめぐるぐる回り始めた。回るというよりはぶん回すという表現の方がしっくり来る。回ってるのを目で追ってるだけで目が回る

それを見ていると乗ってみたくなるというのが男である。男でなくとも乗ってみたくなるだろうという事で、3人でチケットを買い乗り場に並ぶ


結婚前の男女は一緒に乗れないとの事で男2人俺とアレックスは同じボックスに突っ込まれ、ボストンは知らんインド人家族と一緒に乗ることになった

観覧車が動き始めたかと思うとものすごい加速をはじめ、頂点に達した瞬間にケツがすこし浮き上がった、かと思うと今度は急に落下を始める



しかも驚く事に、いや、インドだから別に驚きはしないけど、ボックスにはベルトも無いしドアも閉まらないし、柵が低いので頂点に到達する瞬間にしっかり手すりにつかまってないと振り落とされかねない。一年に数人は死んでるであろう事は容易に予測できる

しかも長い。5分が過ぎても止まる様子がない。気持ち悪い・・・アレックスはもはやF○ckとcrazyしか言わないし

頂点に達するたびに祭り会場の全貌が望める。ああ、空港の誘導灯みたいだー、と思っていると急に落下をはじめ地面がぐんぐん近づいてきて、地面を舐めるようにそったかと思うと、今度は祭り会場とは逆方向に上昇を始め、あー月だー、と思っているとまた急下降を始める

観覧ってなんですか?

ぐるぐる回されすぎて、そろそろお迎えが来たかなーと思う頃にようやく停止

降りると様子のおかしな人が一人。顔を真っ青にしてうつむいて言葉をはっしないゾンビことボストンが立っていた。その姿があまりにもゾンビのようだったので、あやうく火炎放射器で燃やしてしまうところであった

そしてその超即観覧車の向こうにこれまた様子のおかしなフライングカーペットが稼動していた

普通のフライングカーペットの動きに加えて、更にぐるぐると指先で回転するコインのように勢いよく平行に回っている

俺「あれ乗ろうぜ」アレックス「えーマジでぇーー  まぁいっか 乗るか」ボストン「私もう無理です、ここで待ってるんで2人だけで行ってきていいですよ」2人「OK わかった」

俺とアレックスはチケットカウンターに行き、3人分のチケットを買った

日本人はこういうのに弱いのだ。俺のついだ酒が飲めないってのかよ、と、言う勢いでボストンにチケットを渡し、半強制的に3人で乗車。チケットを見た瞬間に更にボストンの顔が青くなったような気がしたが、多分気のせいだろう

ブーと言う音とともにフライングカーペット+αは勢いよく回転し始めた。まるで回転寿司になったような気分だ・・・誰か乾いてカピカピになる前に俺を召し上がってくれ・・・・

カラカラになる直前にようやく停止。ボストンはまるで朝から晩まで誰も食べてくれる人がいなかった寿司のように水分が抜けきって、ほぼミイラ化。言葉すら忘れてしまったようだ。胃の内容物をかけられるのが嫌だったので、少し離れておいた

その後ビーチの波打ち際で水を飲んで休憩。アレックスの日本語「さあ、行こう」の言葉と共に俺たちは家路に着くのであった

あーープーリー楽しかった

次はいよいよ本格的な南インド、ハンピに向うため中間の街ハイデラバードまで電車で24時間の旅です



2014年1月27日月曜日

コルカタ18禁

アンダマンからコルカタに戻り子汚い宿マリアの名をかる南京虫の巣窟に宿泊した。背に腹はかえられるぬ、というか知っていたら泊まらなかったんだけど

チェックインすると朝っぱらから小汚い中庭にある小汚い鏡で電気シェーバーでヒゲを剃ってる白人と目が合う

適当に小話をして切り上げようと思ったんだけど、次の目的地が一緒でこれから切符を予約センターまで買いに行くと言うので一緒に行く事にした

実は列車のチケットの予約は旅行代理店でもできるんだけどこれが少々厄介なのだ。俺が旅行代理店に行った時は既にプーリー行きのチケットは2ヶ月先まで売り切れでエマージェンシーチケットしかないと言われたのだ

エマージェンシーチケットとは出発の24時間前に数席だけ発売される直前チケット。しかしこれが通常のチケットの1.4倍位するのだ。更に旅行代理店を通すと手数料も余計にかかるので通常の2倍近くに膨れ上がってしまう。そして一番臭いと思ったのがチケットが既に売り切れているという旅行代理店のセリフだ

アンダマンで平和ボケしてたせいか一瞬信じて買いそうになったが、すぐに自分がインドにいることを思い出し、面倒くさいけど鉄道予約センターに直接行って確かめることにした

彼の名前はアレックスでヒゲを剃った後でもぼうぼうなままの超ネガティブなイタリア人

2人で歩いていくかリキシャに乗るかで相談したときに、コルカタには未だに人が牽く人力車が残っていると言うのでそれに乗ってみようという話になり、道端でたむろしていた人力車をつかまえて交渉したんだけど料金がオートリキシャより高い

断ると向こうもいつものように頑張ってしつこくしてくるのだが、アレックスがいきなりキレだす。無視しとけばいいのにでかい体で相手に詰め寄り「なんか問題あるのか?」と凄みだし、相手はじりじりと後ずさりを始める

「おいアレックスなんでそんな事でキレてるんだ?ここはインドだぞ!そんな事で切れてたらきりないぞ。歩いていくぞ」「あいつらはいちいち俺を怒らすんだよ」

アレックスがインドに来るのはこれで4回目

一回目はインド人のそういう態度も面白いと思ったらしいけど2回目でウザイと感じ始め、3回目で終に怒らす奴が出てきて、4回目で既にうんざりしているらしい

「じゃあなんでインドに4回も来たんだよ?」「完全にミスだったよ。3回目で辞めときゃよかった。もう本当に飽き飽きしてんだよあいつらに」

眉間にしわを寄せ首を振りながら嫌そうな顔をしてアレックスは言う「インド人つったらあれだろ、ヘイ マイフレンド マイフレンドって頭の中では金の事しか考えてないし そんでもって腹がぼってりしてて口ひげがあってウザイだけで皆おなじじゃねーか。そんでこっちが断るとwhat's problem?what's problemってしつけーしよ、お前らがプロブレムだってんだよ」

更にアレックスは続ける「よくインドに来ると世界観が変わるとかスピルチュラだとか抜かすツーリストがいるけどアホじゃネーか?何がスピラチュラだ、糞くらへってんだよ」。。。なんでこいつインドにいるんだ?

「インドの映画知ってるか?」俺「ああ知ってるよ。見たこと無いけど、ヒンドゥー語理解できなくても面白いらしいな」

「俺は嫌いだね、最初から最後までハッピーハッピーで金持ちばっか出てくるパラダイスでリアルティもへったくれもねぇー。なんでこんな映画ばっかかわかるか?こいつらの普段が酷いからだよ。ひでー生活してるから現実逃避するために映画の世界に逃げ込んでるんだよ けっ」

・・・なんてネガティブなイタリア人なんだ

「お前なんでインドにいんだよ?」アレックス「わかんねぇ」

アレックスは擦れすぎだが彼の気持ちがわからないこともない

俺も一年以上既に途上国を旅していて、途上国に住む人間と本当にいい友達になる事は難しいと思ってきた

ちょっとあそんだり酒飲んだりするくらいなら問題ないけど、深く関わるとあれっていうずれを感じる

よくどこどこの国の人は皆親切で最高!とか、すごいフレンドリーとか聞くし、まぁ俺もそんな日記は実際書いたことあるけど、そんなのは表面上の話であって、写真だけ見て食べもせずに料理を美味しいと言ってるのと同じこと。大きなズレを感じた瞬間の失望感はかなりのもの

だから俺もアレックスほどインド人は嫌いじゃないけど彼の気持ちはなんとなくわかるし、俺も最近はインド人に限らず現地人とは深く関わらないようにしてる。よく家に泊まりに来いと誘われることもあるけど、全て断っている

そういう途上国と先進国の違いがチラッと見えてしまうのはあまり気分のいいことじゃないけど、それが現実であり、そんな事はインドに来る前からわかっていたが、ここに来るとそれを更に思い知らさられる

「日本では何人妻をもてるんだ?」「いや一人だよ」「なんで一人だけなんだ?」これは以前マレーシアで仲良くなった飲み仲間にされた質問だけど、こんな質問になんて答えればいいだ?女と男が平等だと思ってない人間に、妻を一人しか持てない理由を納得できるように説明できる筈もない

「じゃあなんで女は夫を複数もてないんだ?」と質問しても「そんなのは当たり前だろう」と返されて終わってしまうのだから

予約センターに行くさなか、路上で話しかけてくるインド人を全て無視しながらアレックスとこんな話をしていた。最初インド人にいきなりキれてるのをみてこいつとは絶対に仲良くなれないなって思ったけど、こうやって話していると今までに無いタイプで凄い面白い

そんな道中にアレックスが露店で売っていた謎の小さなビンに目をとめた

「なにそれ?」俺が聞くと「精力増強剤みたいなもんだよ」

「バイアグラみたいなもんか」「ちょっと違うけど似たようなもんだな」と、しげしげとビンを見てたかと思うとポケットから金を取り出した

「へっ 買うの?」「ああ安いし試してみるよ」

「お前まだ28だろ、俺より年したじゃんか、そんなの必要ないだろ」「いや、まだ元気だけど実験してみたことがあってさ」と言って、アレックスは80ルピーを露店商に渡して購入したビンをポケットがなかったのかそのまま手に握り締めながら歩き始めた

20分も歩くと鉄道予約センターの外国人専用窓口に着いた

早速俺がチケットの有無を確認すると、かなりの空席がまだ残っていた。危うく旅行代理店にやられるとこだった。ちなみにアレックスはパスポートを忘れて情報すら提供してもらえなかった

俺が窓口でチケットのアプリケーションフォームを埋めている間、アレックスは横で俺を待っていた

すると窓口のオッサンがアレックスの手の中の物をしげしげと眺めて「おい お前それ何持ってんだ?んん??」とアレックスに話しかけるのを、俺はフォームを埋めながら横目で見ていた

「ああこれか、これは精力増強剤だよ」「ほうほう、ちょっと見せてみろ」アレックスがビンをオッサンに渡した

アレックスが「しってんのか?それ」「んん見たことあるような無いような。。。でも効きそうだな。飲むとびんびんになるって奴だろ?」

「ああ だといいんだけどな」「でもお前見た感じまだ大丈夫そうじゃないか、こんなもの必要ないだろう」

「いやそうなんだけど、持続時間が欲しくてさ。一回目はいいんだけど2回目いこうがな・・・一晩中相手を楽しませるのが男の義務だろう」「ははは そりゃいいや、でもお前肝心な相手はいるのか?」

「ああベトナムに2人ほどいるよ。ただのセックスフレンドだけどな」「ベトナム?何でそんなとこにいるんだ?」

「前にベトナムで半年くらい英語の先生してたことあって、その時に拵えたんだよ。俺アジア人好きだからさ」「いいなーお前それ。そりゃ一晩中頑張って喜ばしてやらねぇとな!!ところでインド人は試したことあるのか?」

「いやまだ無いな」「インド人いいぞーーーお前どこ泊まってんだ??」

「マリアだよ」「マリアか、あそこのオーナーだったら頼めば手配しくれるぞ。そしたらこの薬の効果もしっかり試せるじゃないか!!今晩やってこいよ、これ飲んでさ」

「ああ考えておくよ」・・・・信じられるだろうか?これが国家公務員が窓口でする会話だろうか?日本では考えられない内容だ

しかも2人ともエロい話をするニヤニヤ顔つきではなく、企業の商品開発の会議でもしているかのように真面目な顔して話しているのだ。だからインドは嫌いになれない

結局アレックスは次の日パスポートを持ってもう一度訪れる羽目になったんだけど、そこでは更に後ろに並んでたインド人も加えて3人でめちゃくちゃ盛り上がって、精力増強剤の話で3時間くらい窓口に張り付いてたらしい



俺は数日しかコルカタにいなかったけど、夜は毎日の様にアレックスと飲んでいた

飲むといっても宿の前にある歩道で堂々と店を出している軽食堂


アレックスとする話といったら殆ど女の子の話。あの子が可愛いとかどんなのが好みとか、まるで学生が休み時間に話すよな内容の話ばかり。普通はツーリスト同士旅の話とかお互いの国の文化の違いとかで盛り上がるんだけど、俺も正直そういう話には飽き飽きしてたからアレックスと飲んでする話は楽しくてしょうがない

彼いわくイタリア人はまず第一が女の事らしい。人生で一番重要なのはどんな女と付き合うか、どんな女友達をもつか、どんな女とやってきたか、それが一番重要でそれしか考えていないと言い切るアレックス

しかもさっき同様一つも浮ついた様子はなく、真面目な顔をして言い切るのだから素敵である

朝から晩までどんな女と話したかとか、目の前を通った女の子の評価をしたりとか。面白いのが必ず可愛いと思うと理由を付け加えるのだ。「あの子は目がきついけど頬が丸くて柔かい感じのアンバランス感がセクシーだよな」とか「今日そこで話した中国人は顔は今一だけど性格が凄くよかったよ」と、とに角真剣に話してくれる

そしてアレックスの夢は日本人や韓国人、中国人の彼女を持つことらしい。これはアレックスだけじゃなくてイタリア人男は皆憧れてるらしい。イタリア人女はどうなのと聞いたところ、強すぎて駄目らしい。癒しが欲しいんだと語っていた

酒のつまみはこんな話ばかりだけど、白人とこんな話を真剣にするのは初めてだから面白くてしょうがないし、話が日本の同姓同士の飲みみたいに下品な方向に流れていく事は無かった。終始真剣そのもの

そしてこの路上レストランには俺たちだけじゃなくて、いろんな国のツーリストが毎晩集まって国籍関係なく盛り上がる

ある時は、韓国と日本で英語の先生をやっていたと言うアイリッシュの女の子。日本と韓国を比べ韓国人をぼろくそに言ってた。俺も乗っかりアレックスも乗っかり3人で韓国をぼろくそに・・・・よくないね こういうの

そのアイリッシュの子が後で手を出してる物乞いに気づくと「あ!!あなた知ってるわよ!3年前もここにいたでしょ!!私覚えてるんだから」と楽しそうに誰も相手にしない物乞いと楽しそうに話し始めた

ある時は日本人が嫌いだと俺に面と向かって言い放ったインド人

笑いながら理由を聞くと「若い日本人の女が俺の店に買い物に来て、気に入ったものを見つけたのに買おうかどうしようかいつまでも友達同士で相談してんだよ!!しかも挙句の果てには店の棚の下に詰ってたゴミに突っ込みいれて盛り上がり始めるんだぜ!!どういう国民性してんだよお前ら!!」俺「す すみません」たしかにありえる!!

人種もクラスも種すら関係なく、物乞い犬まで混じって皆で盛り上がりる不思議なレストラン。俺もアレックスもそんな不思議なレストランの魅力に嵌っていった

そしてそんなある晩にちょっとした事件が起きた

その日はアレックス以外に2人のイタリア人、中国人、韓国人、インド人、フランス人の数人でいつものように盛り上がっていた

そのうちのイタリア人の一人が地面にIpadを置いてトイレにたち、帰ってきたら無くなっていた

そんなとこに置く方も置く方だけど、レストランの席は上の写真の通りベンチが二つ向き合って並べられてるだけだから、例え地面に置きっぱなしにしたとこで誰かしらの目には入っているはずなのだ

それでも現実にそんな事件が自分達の目の前で起きたのだから、皆少なからずショックは受けていた

そして誰もがそこら辺の通行人のインド人が盗んだものと思っていた

しかし、ことの顛末はもう一人のイタリア人が盗んだらしいとアレックスから次の日聞かされた

意外なところに敵は潜んでいたのだ

あの夜、Ipadを盗まれたイタリア人が「それでも俺はコルカタが好きだぜ!!」と言った一言が今でも忘れられない

2014年1月21日火曜日

アンダマンの天国

俺はハブロック島で少しだけ有名になっていた

一つはハブロック島の観光客の殆どが白人で、さらにその白人の殆どがイスラエル人。だからただ一人の東アジア系は結構目立つ。

そしてもっとも大きな理由は俺が暇を見つけてはフルートを吹いていたこと

もちろん俺のゲストハウスにもイスラエル人はたくさん宿泊しており、それぞれのコミュニティのようなものが出来上がっている。そして俺の向かいの部屋に長期滞在しているイスラエル人女子がフルートを気に入って、あちこちのイスラエル人コミュにアジア人でフルート吹いている奴がいると言いふらして周ったらしい

お陰でその日以来、ちょくちょくいろんなコミュに呼ばれては酒を飲んだりギターとセッションしたり、イスラエルの変わった文化を教えてもらったりと穏やかなナイトライフがスタートした。演奏すると彼らは必ず見返りにビールを1本くらいはご馳走してくれるので、俺もそれらのコミュに毎晩参加するのを楽しんでいた

そんな経緯もあり、昼間でも道路を歩いていると知らない白人に話しかけられたり、パーティー誘われたりとダイビング以外の楽しみを見出していった




昼間はダイビングが終わった後はよくインストラクターのザンの家に遊びに行ってた

彼女の家に行くと必ず日本のアニメを見せられる。日本人の俺ですら知らないようなアニメばかり。

そして絶え間なく誰かが(ほとんどイスラエル人)が遊びに来る

時間も決めず適当に遊びに行って、誰かが適当にいて、帰りたくなったら適当に帰る。中学生や高校生の頃、溜り場になってた友達の家を思い出す。誰でも学生時代こういう経験があったのではないだろうか

中学生の頃は男同士変な意地やプライドがあるから、友達の家に知らない奴が来ると、みんな会釈だけして喋ろうとしなかった

こいつは俺より年上なのだろうか?年上だったら敬語を使わないといけないな、でももし年下だったら、敬語なんて使ってる俺がこいつにビビッてるみたいじゃないか・・・なんて今思うと噴出してしまいそうなくだらないプライドを皆それぞれ持っていたから、知らない奴とは積極的に関わろうとはしなかった

でも、英語には敬語なんて存在しないし、年上も年下もない、いくら年上でも馬鹿は馬鹿、それが欧米社会の考え方

だからザンの家では知らない奴がくると、皆笑顔で俺に手を差し出し、お互い軽く自己紹介をして、そのあと気が会えば話を続ける

英語は今でも大っ嫌いだけど、こうやって気軽にコミュニケーションをとれる所だけは好き
村上春樹を所持していたザン

こんな感じで昼間はダイビング、そのあとは日本アニメ鑑賞、夜はプチパーティーと、最初は一人でアイランドリゾートなんて楽しめるのだろうかと不安もあったががっつりと楽しんでいた






2週間の滞在の内の半分以上をハブロックで楽しんだ後、更に北に位置するロングアイランドに移動した。気に入らなかったら州都のポートブレアにとっとと戻ればいいし、気に入ればぎりぎりまで滞在すればいいと思っていた

そして結果的に俺は天国を発見した

島に着くと必ずと言っていいほどトゥクトゥクやタクシーといった乗り物が観光客を待ち構えているのだが、ここでは誰も俺の事を待っていない

フェリーに一緒に乗ってた乗客も殆どが島民のようで、到着すると皆迷わず真っ直ぐと家に帰るように自分達の目的地に散っていって、俺だけが港に取り残された

二手に分かれてた道を右手に曲がり少し歩くと観光管理局があったのでゲストハウスの場所を聞くと、外の青色の矢印をたどっていけと意味のわからない案内をされる

ためしに外に戻り矢印を探すと確かに地面に矢印が書いてある。そこでロンリープラネットを広げるとそこにも矢印を追っていくとこの島唯一のゲストハウスにたどり着くだろう書かれていた

矢印を追って歩くこと15分、そこにはブループラネットと大きく書かれた壁と小さな入り口が矢印の先にあり、そこの入り口から他にも赤と緑の矢印が始まっているようだった

壁の中に入ると大きな木を中心に囲むようにテーブルや椅子が並べてある中庭兼レストラン、そして更にその庭を囲むようにバナナの皮で拵えた可愛らしいコテージが立ち並んでいた

中にはハンモックや小さな本棚があり、のんびりするにはもってこい

コテージは一泊350ルピーと破格な価格設定の上、しっかりとファンもついているし、俺の好きなベッドのないジャパニーズスタイルの部屋だった


そしてここの泊り客はイングランド人4人のグループだけ。つまりこの島に現在滞在している観光客は俺を含めて5人だけ。宿のオーナーもイングランド人の年配の女性で、表の矢印は彼女のアイデアらしい。矢印の色事にそれぞれの目的地が設定されていて、地図が作られてないこの島に来る観光客のために考えたとの事

近くには綺麗なビーチもあり、少し足を延ばすと他のビーチやマングローブの林。村にはたった3つだけのレストランに小さな売店があるだけ。人口も恐らく100人もいないのではないだろうか?

昼間はハンモックに揺られながら本を読んだり映画をみたり、気が向いたらビーチに足を運ぶもよし、夕方は近くの寺でヨガに勤しむのよし。夜は仲良くなったイングランド人と酒を飲んでまったりと過ごす・・・

これこそ天国



こんな生活を続けてただけだから、特筆書くことも無いけど、この旅で訪れたアイランドリゾートの中で天国と呼べるのは唯一この島だけという事は確かである。あくまで俺にとってはだけど

滞在は4日しかできなかったけど、最後の最後でようやく自分の求めていた理想の島にたどり着けて満足




帰りはイングランド人と一緒になったので、最後の日はポートブレアで同じゲスハウスに泊まり、飲んでお約束のロンドンでの再開を誓って別れた


2014年1月14日火曜日

ダイビングで事故った話

今回の日記はダイビングで自分の身に起きたちょっとしたアクシデント。最近は世界一周してる子の中でもその途中でダイビングのライセンスを取る人が増えているので、何かの役に立てばと思ったんだけど、そこまで面白い大事故でもないのであしからず




ハブロックアイランドまでの船旅は快適だった。インドの乗り物は飛行機以外は人を詰め込めるだけ詰め込むのだが、アンダマンのフェリーは観光色が強いせいか、座席の数と同じ人数の人しか乗っていない。例え自分の座席があってもわざわざ表の甲板で本を読んだり写真を撮ったりして過ごす人も多かったので、クーラーの効いた客室は深夜のレストランみたいにガランとしていた

出発して約6時間後の夕方にハブロックアイランドに到着。翌日はゲストハウスと安いダイビングショップを探すのに丸一日を費やした

一日島を歩き回って全てのタイビングショップを周ったのにも関わらず、どこもほとんど同じような料金だったため、一番近くの「Andaman bubble diving club」にした。こういうのを骨折り損のくたびれもうけというのではないか

料金は3days 6diveで13000ルピー 約2万円。思っていたより高い。こういう時は日本と比べると安いと思って納得する事にしている

俺に付いたインストラクターはインド人の女子ザン。インド人と言っても髪は海でなびくサンゴのように真っ赤だし、体中タトゥーだらけだし、サリーなんて着てるの一度も見たことないし、性格もオープン過ぎてとてもインド人とは思えない。

英語も訛りのない綺麗な英語を話すんだけど、せっかちな性格のためか話すのがめちゃくちゃ早い。CNNを2倍速で聴いてるようなもので、会話の5秒おきにfu○kの単語が聴こえてくるくらい顔に似合わず言葉が汚いお嬢さま。そして背中には「竜和」の謎のタトゥー・・・

ダイビングは早速翌日から始まり一日2本をこなしていく。一日目も二日目も特に問題なくこなしていったが、3日目にエントリーしてからトラブルが発生した

実はエントリーする前の機材のチェックの段階から少し違和感を感じていた。レギュレーター(息を吸うためにくわえるマウスピースのようなもの)をくわえて空気をチェックした時に少し圧力が足りないような気がした。それでも地上では十分な空気の供給量があったしゲージも問題なく200以上をさしていたので、そのままOKをだして海へとエントリーした

潜行が始るとやはりレギュレターに違和感を感じる、出てくる空気の量が少ないような気がする。それでもやってやれない事は無いだろうとその時は思ったし、ここで俺が上がるとパディもインストラクターも全員浮上しないといけなくなると思うと、機材を変えに浮上するのも億劫に思えそのままどんどん潜行していった

海の底は綺麗だった。地上から見ると何処も同じなのに底は風になびく花畑のように海流に身をまかせてゆらゆら揺れる七色のサンゴたち、鮮魚店で売られてる魚とは違う生きた魚、海の深さで減衰して細くなった太陽の光がそれらをうっすらと照らし出す。

そんななんともいえない美しい光景に興奮してあちこち動き回っているうちにパディとザンが遥か頭上にうんと小さく見えた

多分BCGに空気が残ってて、それがちょっと浮上した弾みに膨張して本人の意思とは別にどんどん上に浮上してしまったのだろう。それをとめるためにザンが必死に足を引っ張って引き戻そうとしてるようだった

本来なら離れないように彼女達を追いかけて俺も浮上するべきだったのは分かっていたんだけど、海底から離れたくなかった俺はそれを無視して一人で海底探索を続けた

そしてその時から先ほどから感じていたレギュレターの違和感は更に大きなものへとなっていた。つまり息が吸いにくいという事だ。恐らく水中で動きすぎて体が酸素を通常時より必要としたのと、水深が深くなった分だけ酸素の絶対必要量が増えたせいだとは思うんだけど、大きく息を吸うと空気がちゃんと出てこない

ゲージはいつも5分置きに確認するようにしてるんだけど、この時だけはすぐにゲージに目をやった

すると酸素の残り残量を示すゲージが0~70の間を行ったり来たりしている。さっき確認したときは70残ってたのに・・・さすがの俺も焦った。どうしよう???

そこで俺はまずレギュレターの異常を疑って、予備のレギュレターに切り替えたんだけどやはり空気があまり出てこない、これはいよいよ酸素切れか?

上を見上げると水面に移った太陽の光の塊があんなに小さく見えてる、こんなに水面を遠く感じたのは初めてだった

もしパディが近くにいれば酸素をもらいながらゆっくりと浮上できるのに・・・でも、今更そんな事考えたって意味がない

今はこの状況をどう切り抜けるかだ

急浮上は最後の手段。理由は省くがダイビングの急浮上は危険な行為で、深さと潜行時間によっては死を招く

そのため通常浮上時にはゆっくり浮上して水深5Mで一旦停止、3分待機してからゆっくり浮上する、これが自分の身を守るためのルールだ

だからこのまま一気に水面まで急浮上するのはためらったし、暫く考えた

誰もいない水中で周りを見渡しながら考えた、目に映るのは青だけ。綺麗なサンゴも面白い顔した魚も今は目に入らない

その間にも息はどんどん苦しくなってくる、どうしよう??

この焦りが心拍数を早め無駄に酸素を消費するのを手伝ってどんどん息苦しくなってくる

ゲージは相変わらず行ったり来たりを繰り返し壊れているのか酸素が切れているのかわからない。どっちにしろこれ以上水中にいることはできないと判断した俺は水深と潜行時間を確認した

ダイブコンピューターがないため正確な時間は把握できないけど、恐らく30分程度で水深が15M

一気に浮上してもリスクはまだ少ない

そこでBCGには空気をいれず、自力だけで緊急浮上する事にした

体を垂直にして大きく息を吸いながらゆっくりと水中をキックする

大きく息を吸うと空気の出なさ具合を再度認識させられ余計苦しく感じるがそれもあと少しの辛抱

どのくらい進んだのか全然わからないけど、あんなにちいさかった水面に移った太陽の光の塊が少しずつ大きくなってくる。安堵の念が押し寄せてくる

水面に勢いよく飛び出した瞬間目の前が真っ白になった、太陽の光が眩しかった。太陽の光をこんなにまぶしく感じたのは初めてだ

レギュレターを吐き捨て思いっきり息を吸った。肺の端から端まで空気で満たされていくのがわかる。もやのかかっていた世界がワイパーでもかけた様にクリアーになっていく

結局のところはっきりとした原因はわからなかった。BCGもレギュレターもゲージも酸素ボンベを付け替えてチェックしたが異常は見つからなかった

恐らく酸素ボンベのバブルがきちんと開けられていなかったのだろうという事だった。しかし、それではゲージ異常の説明がつかない

どちらにせよ俺がパディから離れなかったら今回のような緊急浮上を余儀なくされることもなかったのだ

以前あるベテランダイバーが言っていた

ダイビングで死ぬ奴は必ず何かしらルールを破っていると、ルールさえ守っていれば絶対に事故は起らないと

俺は今回パディから離れると言う決定的なルール違反を犯しこういう顛末にいたった。それを見過ごしたザンも自分が悪かったと謝っていた。このダイビングで俺の本数は23本目になるんだけど、潜ることに慣れ初めて少し緊張感が無くなっていたんだと思う

少なくとも今回のアクシデントは今後のための凄くいい経験になった。悪い経験は必ず自分を生かしてくれる、俺はそう信じたい

実はこの後も俺が緊急浮上したため長めの休憩は取ったものの、ダイビングを続けました 笑

それとこれはフィリピンでの経験なんだけど、潜る前の機材チェックで残圧が50しか残っていなかった事が2回もあった

そのまま潜っていたら10分足らずで戻ってくる羽目になっていただろう。日本ではまず無いだろうけど、海外ではこういう事も度々あるし、パディチェックなんてやらないダイブショップがほとんどなので、潜る前の機材チェックは人任せにせず自分で念入りにする事をお勧めします