アンダマンからコルカタに戻り子汚い宿マリアの名をかる南京虫の巣窟に宿泊した。背に腹はかえられるぬ、というか知っていたら泊まらなかったんだけど
チェックインすると朝っぱらから小汚い中庭にある小汚い鏡で電気シェーバーでヒゲを剃ってる白人と目が合う
適当に小話をして切り上げようと思ったんだけど、次の目的地が一緒でこれから切符を予約センターまで買いに行くと言うので一緒に行く事にした
実は列車のチケットの予約は旅行代理店でもできるんだけどこれが少々厄介なのだ。俺が旅行代理店に行った時は既にプーリー行きのチケットは2ヶ月先まで売り切れでエマージェンシーチケットしかないと言われたのだ
エマージェンシーチケットとは出発の24時間前に数席だけ発売される直前チケット。しかしこれが通常のチケットの1.4倍位するのだ。更に旅行代理店を通すと手数料も余計にかかるので通常の2倍近くに膨れ上がってしまう。そして一番臭いと思ったのがチケットが既に売り切れているという旅行代理店のセリフだ
アンダマンで平和ボケしてたせいか一瞬信じて買いそうになったが、すぐに自分がインドにいることを思い出し、面倒くさいけど鉄道予約センターに直接行って確かめることにした
彼の名前はアレックスでヒゲを剃った後でもぼうぼうなままの超ネガティブなイタリア人
2人で歩いていくかリキシャに乗るかで相談したときに、コルカタには未だに人が牽く人力車が残っていると言うのでそれに乗ってみようという話になり、道端でたむろしていた人力車をつかまえて交渉したんだけど料金がオートリキシャより高い
断ると向こうもいつものように頑張ってしつこくしてくるのだが、アレックスがいきなりキレだす。無視しとけばいいのにでかい体で相手に詰め寄り「なんか問題あるのか?」と凄みだし、相手はじりじりと後ずさりを始める
「おいアレックスなんでそんな事でキレてるんだ?ここはインドだぞ!そんな事で切れてたらきりないぞ。歩いていくぞ」「あいつらはいちいち俺を怒らすんだよ」
アレックスがインドに来るのはこれで4回目
一回目はインド人のそういう態度も面白いと思ったらしいけど2回目でウザイと感じ始め、3回目で終に怒らす奴が出てきて、4回目で既にうんざりしているらしい
「じゃあなんでインドに4回も来たんだよ?」「完全にミスだったよ。3回目で辞めときゃよかった。もう本当に飽き飽きしてんだよあいつらに」
眉間にしわを寄せ首を振りながら嫌そうな顔をしてアレックスは言う「インド人つったらあれだろ、ヘイ マイフレンド マイフレンドって頭の中では金の事しか考えてないし そんでもって腹がぼってりしてて口ひげがあってウザイだけで皆おなじじゃねーか。そんでこっちが断るとwhat's problem?what's problemってしつけーしよ、お前らがプロブレムだってんだよ」
更にアレックスは続ける「よくインドに来ると世界観が変わるとかスピルチュラだとか抜かすツーリストがいるけどアホじゃネーか?何がスピラチュラだ、糞くらへってんだよ」。。。なんでこいつインドにいるんだ?
「インドの映画知ってるか?」俺「ああ知ってるよ。見たこと無いけど、ヒンドゥー語理解できなくても面白いらしいな」
「俺は嫌いだね、最初から最後までハッピーハッピーで金持ちばっか出てくるパラダイスでリアルティもへったくれもねぇー。なんでこんな映画ばっかかわかるか?こいつらの普段が酷いからだよ。ひでー生活してるから現実逃避するために映画の世界に逃げ込んでるんだよ けっ」
・・・なんてネガティブなイタリア人なんだ
「お前なんでインドにいんだよ?」アレックス「わかんねぇ」
アレックスは擦れすぎだが彼の気持ちがわからないこともない
俺も一年以上既に途上国を旅していて、途上国に住む人間と本当にいい友達になる事は難しいと思ってきた
ちょっとあそんだり酒飲んだりするくらいなら問題ないけど、深く関わるとあれっていうずれを感じる
よくどこどこの国の人は皆親切で最高!とか、すごいフレンドリーとか聞くし、まぁ俺もそんな日記は実際書いたことあるけど、そんなのは表面上の話であって、写真だけ見て食べもせずに料理を美味しいと言ってるのと同じこと。大きなズレを感じた瞬間の失望感はかなりのもの
だから俺もアレックスほどインド人は嫌いじゃないけど彼の気持ちはなんとなくわかるし、俺も最近はインド人に限らず現地人とは深く関わらないようにしてる。よく家に泊まりに来いと誘われることもあるけど、全て断っている
そういう途上国と先進国の違いがチラッと見えてしまうのはあまり気分のいいことじゃないけど、それが現実であり、そんな事はインドに来る前からわかっていたが、ここに来るとそれを更に思い知らさられる
「日本では何人妻をもてるんだ?」「いや一人だよ」「なんで一人だけなんだ?」これは以前マレーシアで仲良くなった飲み仲間にされた質問だけど、こんな質問になんて答えればいいだ?女と男が平等だと思ってない人間に、妻を一人しか持てない理由を納得できるように説明できる筈もない
「じゃあなんで女は夫を複数もてないんだ?」と質問しても「そんなのは当たり前だろう」と返されて終わってしまうのだから
予約センターに行くさなか、路上で話しかけてくるインド人を全て無視しながらアレックスとこんな話をしていた。最初インド人にいきなりキれてるのをみてこいつとは絶対に仲良くなれないなって思ったけど、こうやって話していると今までに無いタイプで凄い面白い
そんな道中にアレックスが露店で売っていた謎の小さなビンに目をとめた
「なにそれ?」俺が聞くと「精力増強剤みたいなもんだよ」
「バイアグラみたいなもんか」「ちょっと違うけど似たようなもんだな」と、しげしげとビンを見てたかと思うとポケットから金を取り出した
「へっ 買うの?」「ああ安いし試してみるよ」
「お前まだ28だろ、俺より年したじゃんか、そんなの必要ないだろ」「いや、まだ元気だけど実験してみたことがあってさ」と言って、アレックスは80ルピーを露店商に渡して購入したビンをポケットがなかったのかそのまま手に握り締めながら歩き始めた
20分も歩くと鉄道予約センターの外国人専用窓口に着いた
早速俺がチケットの有無を確認すると、かなりの空席がまだ残っていた。危うく旅行代理店にやられるとこだった。ちなみにアレックスはパスポートを忘れて情報すら提供してもらえなかった
俺が窓口でチケットのアプリケーションフォームを埋めている間、アレックスは横で俺を待っていた
すると窓口のオッサンがアレックスの手の中の物をしげしげと眺めて「おい お前それ何持ってんだ?んん??」とアレックスに話しかけるのを、俺はフォームを埋めながら横目で見ていた
「ああこれか、これは精力増強剤だよ」「ほうほう、ちょっと見せてみろ」アレックスがビンをオッサンに渡した
アレックスが「しってんのか?それ」「んん見たことあるような無いような。。。でも効きそうだな。飲むとびんびんになるって奴だろ?」
「ああ だといいんだけどな」「でもお前見た感じまだ大丈夫そうじゃないか、こんなもの必要ないだろう」
「いやそうなんだけど、持続時間が欲しくてさ。一回目はいいんだけど2回目いこうがな・・・一晩中相手を楽しませるのが男の義務だろう」「ははは そりゃいいや、でもお前肝心な相手はいるのか?」
「ああベトナムに2人ほどいるよ。ただのセックスフレンドだけどな」「ベトナム?何でそんなとこにいるんだ?」
「前にベトナムで半年くらい英語の先生してたことあって、その時に拵えたんだよ。俺アジア人好きだからさ」「いいなーお前それ。そりゃ一晩中頑張って喜ばしてやらねぇとな!!ところでインド人は試したことあるのか?」
「いやまだ無いな」「インド人いいぞーーーお前どこ泊まってんだ??」
「マリアだよ」「マリアか、あそこのオーナーだったら頼めば手配しくれるぞ。そしたらこの薬の効果もしっかり試せるじゃないか!!今晩やってこいよ、これ飲んでさ」
「ああ考えておくよ」・・・・信じられるだろうか?これが国家公務員が窓口でする会話だろうか?日本では考えられない内容だ
しかも2人ともエロい話をするニヤニヤ顔つきではなく、企業の商品開発の会議でもしているかのように真面目な顔して話しているのだ。だからインドは嫌いになれない
結局アレックスは次の日パスポートを持ってもう一度訪れる羽目になったんだけど、そこでは更に後ろに並んでたインド人も加えて3人でめちゃくちゃ盛り上がって、精力増強剤の話で3時間くらい窓口に張り付いてたらしい
飲むといっても宿の前にある歩道で堂々と店を出している軽食堂
アレックスとする話といったら殆ど女の子の話。あの子が可愛いとかどんなのが好みとか、まるで学生が休み時間に話すよな内容の話ばかり。普通はツーリスト同士旅の話とかお互いの国の文化の違いとかで盛り上がるんだけど、俺も正直そういう話には飽き飽きしてたからアレックスと飲んでする話は楽しくてしょうがない
彼いわくイタリア人はまず第一が女の事らしい。人生で一番重要なのはどんな女と付き合うか、どんな女友達をもつか、どんな女とやってきたか、それが一番重要でそれしか考えていないと言い切るアレックス
しかもさっき同様一つも浮ついた様子はなく、真面目な顔をして言い切るのだから素敵である
朝から晩までどんな女と話したかとか、目の前を通った女の子の評価をしたりとか。面白いのが必ず可愛いと思うと理由を付け加えるのだ。「あの子は目がきついけど頬が丸くて柔かい感じのアンバランス感がセクシーだよな」とか「今日そこで話した中国人は顔は今一だけど性格が凄くよかったよ」と、とに角真剣に話してくれる
そしてアレックスの夢は日本人や韓国人、中国人の彼女を持つことらしい。これはアレックスだけじゃなくてイタリア人男は皆憧れてるらしい。イタリア人女はどうなのと聞いたところ、強すぎて駄目らしい。癒しが欲しいんだと語っていた
酒のつまみはこんな話ばかりだけど、白人とこんな話を真剣にするのは初めてだから面白くてしょうがないし、話が日本の同姓同士の飲みみたいに下品な方向に流れていく事は無かった。終始真剣そのもの
そしてこの路上レストランには俺たちだけじゃなくて、いろんな国のツーリストが毎晩集まって国籍関係なく盛り上がる
ある時は、韓国と日本で英語の先生をやっていたと言うアイリッシュの女の子。日本と韓国を比べ韓国人をぼろくそに言ってた。俺も乗っかりアレックスも乗っかり3人で韓国をぼろくそに・・・・よくないね こういうの
そのアイリッシュの子が後で手を出してる物乞いに気づくと「あ!!あなた知ってるわよ!3年前もここにいたでしょ!!私覚えてるんだから」と楽しそうに誰も相手にしない物乞いと楽しそうに話し始めた
ある時は日本人が嫌いだと俺に面と向かって言い放ったインド人
笑いながら理由を聞くと「若い日本人の女が俺の店に買い物に来て、気に入ったものを見つけたのに買おうかどうしようかいつまでも友達同士で相談してんだよ!!しかも挙句の果てには店の棚の下に詰ってたゴミに突っ込みいれて盛り上がり始めるんだぜ!!どういう国民性してんだよお前ら!!」俺「す すみません」たしかにありえる!!
人種もクラスも種すら関係なく、物乞い犬まで混じって皆で盛り上がりる不思議なレストラン。俺もアレックスもそんな不思議なレストランの魅力に嵌っていった
そしてそんなある晩にちょっとした事件が起きた
その日はアレックス以外に2人のイタリア人、中国人、韓国人、インド人、フランス人の数人でいつものように盛り上がっていた
そのうちのイタリア人の一人が地面にIpadを置いてトイレにたち、帰ってきたら無くなっていた
そんなとこに置く方も置く方だけど、レストランの席は上の写真の通りベンチが二つ向き合って並べられてるだけだから、例え地面に置きっぱなしにしたとこで誰かしらの目には入っているはずなのだ
それでも現実にそんな事件が自分達の目の前で起きたのだから、皆少なからずショックは受けていた
そして誰もがそこら辺の通行人のインド人が盗んだものと思っていた
しかし、ことの顛末はもう一人のイタリア人が盗んだらしいとアレックスから次の日聞かされた
意外なところに敵は潜んでいたのだ
あの夜、Ipadを盗まれたイタリア人が「それでも俺はコルカタが好きだぜ!!」と言った一言が今でも忘れられない
0 件のコメント:
コメントを投稿