2014年5月30日金曜日

天空を駆ける鉄道



俺が泊まっていたYMCAは南京虫の巣窟だった。しかも、電気を消すと行動を始めるのが普通だが、どうも相当腹が減っているのか電気をつけていても襲ってくるアグレッシブさ

お陰で一晩中南京虫を潰すのに必死になりすぎて一睡もできなかった

次の日、レセプションに詰めていた初老の男にクレームを入れると、他に空き部屋は無く、部屋の交換ができないから、すぐに殺虫剤を買ってきて対処すると言った、その対応は悪くない

今までは、お前が連れてきたんだと人のせいにしたり、それは蚊だといいはり、一向に認めようとしなかったり、酷い宿は数多くあった。それに比べればなかなかまともである

自分でやらないと気がすまない俺は、宿の男が買ってきた殺虫剤だけをもらって、自分のベッドの隅から隅まで、部屋の隅から隅まで、余ったらバックパックにもたっぷりとかけた

しかし、その効果はなく、その夜も南京との仁義無き戦いは果てしなく続くインドの荒野のように続いた

結局これが原因でキャンディを次の日出ることにした俺は、それをジュリアンたちに伝えた

すると彼らもこれから列車のチケットを買いに行くところだった

次の目的地は俺も、彼らもヌワラエリア、スリランカの紅茶の里だ

なので俺の分の切符も買ってくるように二人に頼んだ

しかし、数時間後にまるで今さっき喧嘩したようなふくれっ面で戻ってきた二人は切符を買っていなかった。訳を聞くと鉄道員にぼったくられそうになったらしい

切符の値段を聞くと一人400ルピー。3時間程度の移動で400ルピーはおかしいと思ったジュリアンたちは、カウンターの後ろに貼ってある料金表をみつけ、指を刺して指摘しらしいのだ

するとどうだろうか?指摘された鉄道員は背中で料金表を隠してしまい、400ルピーと譲らなかったらしい。この国は腐っている

結局俺たちは次の日、乗車直前に切符を買った。買う際に値段を聞かずに、ヌワラエリアまでの普通席と言って120ルピーを先に出したらあっさりと買う事ができた

この国では料金を聞くとぼったくられる。なんでも買う前に正しい料金を知っておかないといけないのだ。それ自体がとてつもなく疲れる腐った国である

国は観光腐りしていても、鉄道からの景色はインド同様素晴らしかった

キャンディが始発の俺たちが乗った鈍行列車はまだそこまで混んでおらず、自由席でも十分に席を確保でき、俺は2人とはちょっと離れた窓際の席についた。キャンディからヌワラエリヤまでは約3時間の鉄道の旅。距離は大したことないが、山の中を走るのでどうしても時間がかかるらしい


列車は発車すると、紙芝居のように次から次へと忙しく景色をめくっていった。キャンディの街中を抜け、太陽に向って大きく両の手を広げた森の中に入り、平原に出ると、のんびりとした感情を持ってうねっている優雅な曲線の丘を横目に、眼前に新緑が美しい山が徐々に迫ってきた

列車は間もなく山の谷間に進入していった。すると両サイドには既に茶葉の大プランテーションが広がり、谷一面が火口湖のようなエメラルドグリーン一色に染められており、谷から吹き下ろす風に首を右に左にもたげている

その谷に広がった大プランテーションを一目見ようと、乗っていた観光客は皆一様に席を立ち始めた。席を立ってうろうろするもの、座席でスナックを食べ始める現地人、入り口に身を乗り出して写真を撮る者、居眠りをする者、車内はまるで園バスのように秩序がなくなってきたが、それはそれで面白い。客は自分なりに楽しんでいるのだから。それを迷惑に感じるような者もいないようだし


 列車は谷間を一時間ほど走ると、今度はその谷の左サイドをナメクジのようにのそのそと登っていった

景色はどんどん開け、やがて谷の左側の尾根に飛び出すと、丘がいくつもの起伏となって一連に連なり、その全てが茶葉で覆われていた。

尾根から見下ろすと、豊かな海のようにも見える一面の茶畑



車窓からの眺め




列車から降りると、ヌワラエリヤの町までは更にローカルバスに乗らないといけなかった。バスは丁度列車から吐き出された観光客を全て乗せ終えると、重苦しいエンジン音と共に発車した

バスに乗っている時に、体がバスに入りきらなくて、体半分外に飛び出た上体で乗っていた中国人のヤンと世間話をしてて、その流れでヌワラエリヤに着いてから、部屋をシェアする事になった

ジュリアン達も同じホテルに泊まる事になったが、ヤンは急ぎの旅らしく、次の日には街を出ることになっていたので、既に16時を周っていると言うのに、リキシャをチャーターして大急ぎで観光に出かけてしまった。そのため俺たちは差ほど仲良くなる事も無く、ヤンは次の日の朝発って行った

ヌワラエリヤの町は、中心街に小さなマーケットや銀行、スーパーなどがかたまっていて、中心街から500メートルも外に出ると、民家がポツポツとあるような、小さくまとまって歩き易い町
町はそれなりに小奇麗に整備されていて、すこし離れたところには公園を併設した湖などもある

三人で湖に行った時にジュリアンが一言「どうせ人口湖だろ」と、ぼそっと言った

彼のこの言葉の「どうせ」には、この町も観光客用に整備された、造られた町だと言う皮肉がこめられていた。確かに湖自体も人口湖のようだったし、町外れには外国人向けのレストランが目立つし、ゴルフ場まであった。ジュリアンの皮肉も実に的を得ているといわざるを得ない

湖には日本でもお馴染みのアヒルの足こぎボートが20艘程浮かべられていて、時間貸しをしている。俺はジュリアンとどうせまた外国人と現地人の値段が全然違うんだろうと言う話になり、験しに値段を尋ねてみた

値段はなんと2500ルピー(約2000円)。日本でもせいぜい数百円で乗れそうなものだ。現地人用の値段も聞いてみたが、料金は同じだと言ってがんとして譲らなかったし、その煩わしそうな対応の仕方を見ていると、同じような質問をいつもされているようだった

近くのカフェで再度値段を聞くと、現地人は800ルピー(640円)。それでも高いが、外人用の値段とは確たる差である

他にもこの町、短い滞在中にうんざりするような事はたっぷりあった

ジュリアン達と別行動をとっていた時の話である

外国人向けのレストランはとに角高いので、なるべく子汚い店構えのローカル食堂を探して、その日の夕食をとることにした

スリランカ人の一般の食事は、基本的にはライスアンドカリーと呼ばれる、ライスに数種類のカレーと、野菜の小鉢が数種類付いて来るセット料理だけだ。この料理が一番安くボリュームもあり経済的なのだ

俺はその子汚い食堂の恰幅のいい中年の女に値段を尋ねると、顔を宙に向け暫しの間を空けてから250ルピーだと言ってきた

カレーアンドライスの値段は現地価格で100~150程度が平均。もちろん高く言ってきているのは分かっていたが、子汚いローカル食堂をこの町で探すのも一苦労だったので、この日はその値段で手を打つことにした

一応フィッシュカリーにしてくれないかと頼んでみたが、魚がないとの事で断られた

席について10分後に運ばれて来たのは、ガイドブックの見本とは似ても似つかない、家庭の三角コーナーに溜まっている残飯を、白米にぶっ掛け様なお粗末なものだった。味も見かけどおり。相場より高いのだからせめて味くらいまともであって欲しかった

気になったのはその残飯丼の頂上に載っていた小指くらいの茶色い塊?ためしに食べてみたが、水分が完全にとんでいて、ぱさぱさしすぎてなんだったのかわからない

そしてうっとおしいのはここからだ

会計の書かれたレシートをみると450ルピーと記載されている・・・

俺が「このレシートはなんだ?」と、尋ねると、デブ婆は「会計よ、450ルピーね」

「は?カレーアンドライスで250ルピーだろ?最初と随分値段が違うようだけど、どういう事?」と、あくまで冷静に聞いた。すると「あなた魚欲しいって言ったでしょ?だから魚をつけて450ルピーになったの OK?」

何がOK?だ! 全く持って意味がわからない。恐らくあのゴミ丼の上に乗っていたダニのクソみたいな物体を魚だと言っているのだろう。仮にあれが魚だとしても200ルピーの値上がりは法外だし、こちらに何も言わないで勝手に会計を変えるのも、正に人知を超えた外道の行ないといわねばならぬだろう

俺は一言「払わない」と、言い放った。会計を元通りに書き換えるか、金を払わないか、どっちかだと、静かに言った

するとババアはみるみる表情が変わり始めた。髪の生え際が抜け上がるばかりにドギツイ静脈を額にうねらせ、目には角が生えてきた。そして醜い言い争いが始るかと思ったが、俺はなぜか腹があまり立たなかった。いつもなら頭に血が登りそろそろカウンターを蹴飛ばすころだが、あまりのババアの強欲振りと、それから出てきた理不尽さが手伝って、この目の前で騒いでいる生き物が滑稽で可哀想に思えてきた

だから俺は無表情にただ「払わない」と、会計を拒み続けた

その間もババアは泥棒だとか、警察呼ぶとか、わめき続けたが、俺は何も言わず、ただ冷たい目でババアを哀れむように眺めているだけだった

さっきから傍観を決め込んでいた現地人の客はババアが一人で興奮してる様子を見て、笑い始め、後ろで作業をしていた旦那と思わしき男も笑い始めた

これで、この中にババアの味方をする奴は身内ですらいなくなった

形成が不利だと判断したか、声が少し小さくなったが、まだ諦めていないようだった。見かねた旦那と思わしき男が、俺に、もう250でいいからねと、笑いながら親切そうな顔で言ってきたが、俺は無表情のまま「当たり前だ」と、一言静かに言った

それでようやくババアも諦めたのか、「とっとと250ルピーよこしな!!」と、乱暴に言い放った

俺はそのまま金を投げてやりたいとこだったが、生憎1000ルピー札しかなかった。そのまま渡すのは危険だと思い、釣を先によこすように言った

するとババアはまた怒り始め、その怒った勢いで外に釣をかき集めに行ってしまった

数分後に戻ってきたババアから先に釣を受け取ると、1000ルピを渡し「greedy pig」と一言言って店を後にした

後ろからはモンスターの断末魔のような叫び声が、スリランカのねっとりした空気に絡まって耳障りに響いた

その帰りに近くのレストランに水を買うためによった。会計の際、水が少し高かったので、嫌味で「これは外国人専用の値段なんだね」っていうと、レジの若い女が「それは冷えてるからです」と、いうので

「じゃあそこにあるぬるいやつくれる?もちろん冷えてないから安いんでしょ?」と、カウンターに並んでた、冷えてない水を指差して言って見た

「いや、同じです。ここはレストランなんで・・・」 「あれ?でも今冷えてるから高いって言わなかった?嘘ついたの?」

「いえ、嘘ではなく・・・」「じゃあなんで冷えてるから値段が違うっていったの?説明できる?」

女は黙ってしまった。もちろんレストランで買えば通常より高いのは当たり前だし、そんなのはわかっていた

ただなんて答えるか聞いて見たかっただけだ。とはいえ、少しいじめ過ぎたかと後で反省しなくも無かった

他にもあげればキリが無いが、俺たち3人でバスに乗って紅茶工場の見学に行った帰りの話

バスの料金が行きと違うので、もちろん俺たちはその事を指摘したが、バスの運転手は料金は同じだと言うばかりで譲ろうとしない

バスに乗っていた他の白人ツーリストも一様に騒ぎ始めた

するとドライバーが証拠はあるのか?と、言うので、ジュリアンがとってあった行きのバスチケットのレシートをドライバーに見せた

ドライバーは表情一つ変えずに、じゃあお前はこの料金でいい。レシートもってない奴は俺の言い値を払え

さすがにこの横柄な態度には乗客全員が激怒し、全員でバスのドライバーに詰め寄り、味方のいないドライバーはふてくをされながら諦めざるを得なかった

こんな事が毎日続くわけです・・・・




茶園で飲んだスリランカティー

この工場でもやはいり観光客価格

なんとスリランカティーが100gで2000ルピー(1600円) あのダージリンでさえ中級クラスで精々100gで500円程度だ

スリランカティーはどっちかというと、質より生産量を重視しているのだから、質を重視しているダージリンティーより高い理由がない

その証拠に現地人が行くようなスーパーで、同じくらいの質の紅茶が200g200ルピーで売っていた

確かにパッケージはとても立派だった。その見かけに騙されて、紅茶を知らない観光客が記念に買っていくのだろう

俺の目の前でも、この1パック2000ルピーもする紅茶を大量に買い占めていた韓国人がいたのだから

2014年5月17日土曜日

キャンディから始る、日に日に募るスリランカへの不信



朝、ゲストハウスの裏にある、誰もいないビーチを散歩した

沖にはスポーツ用のヨットが何艘か浮いていて、湾曲したビーチの向こう側には、無表情なコンクリートの建築郡の首都のコロンボが、柔らかく粉のように白っぽい朝の陽ざしに照らされて、うっすらと見えていた

ゲストハウスに戻ると、ジュリアンカップルが荷物をまとめて、ロビーで朝食をとっている最中だった

「どこ行くか決めた?」「いやまだ決まってないんだ、ここはチェックアウトしようと思ってんだけど」

「俺はキャンディに行く事にしたよ、ここからそうは離れていないし、列車のターミナル駅にもなってるからどこ行くにも便利らしいから」 「そうなんだ、実は俺たちもそこに行く事を考えていたところなんだよ」

「そうなんだ。じゃあ一緒に出ようか?俺朝まだ食べてないからちょっとまっててよ」「ごゆっくり~」

とういうと、俺はトースターでパンを焼いて、バターに砂糖をたっぷり塗ったやつを2枚平らげて、パッキングを済ませて彼等と宿を出た

キャンディはスリランカの古都らしく、なにがあるのかは分からなかったが、とに角ガイドブックを開けばトップページに出てくるような、スリランカでも人気の観光地らしい

交通の便もいいから、あとからいくらでもフレキシブルに計画を立てれるし、なによりもキャンディという名前が覚えやすくて良かった

バスターミナルに到着すると10以上のバスの発着ゲートがあった。近くにいた人にどのバスに乗ったらいいか教えてもらい、 俺たちは止まっているバスに乗り込んだ

30分後にバスはキャンディに向って出発した。出発するとチケットコンダクターが乗客から行き先別に乗車料金を徴収し始めた

俺たちのところまで来たチケットコンダクターは運賃の他に、荷物量を一人50ルピーずつ請求してきた

うっかり払ってしまったが、おかしいと思ったのは俺だけではなく、2人とも不振極まりない顔をしていた

俺「俺うっかり無意識で払っちゃったけど、あれ完全にぼったくりでしょ」マエバ「私もそう思う、前に座ってるおじさん荷物預けてたけど、運賃しか払ってなかったし。私達が払った運賃だって正規の料金なのか怪しいところね」

とはいえ、払ってしまったものはしょうがない。払う前に突っぱねるのは簡単だが、払ってしまったものを取り返すのは並大抵のことではない

ここは貧乏なコンダクターに恵んでやったと思って諦めるしか無いのだろう。こういうコスイ所はインドそっくりである

数時間バスに揺られ、俺たちはキャンディの中心地から10分ほど離れた所にある、バスターミナルで下ろされた

3人で大きなバックパックを背負って街中を歩く姿は、アジサイの花の上を這い上がるカタツムリのように見える。その中でも俺のバックパックはひときわでかい

キャンディの中心地に入っていくと、ネイキッドバイクのように中身むき出しの露店が歩道を半分くらい占領していて、その半分の歩道は行き交う人で埋まっており、いい感じのごたごた感が出ていたが、歩くのにそれほど苦労はしなかった

恐らくウンコやゴミがインドのように落ちていないからだろう

街中からはききなれている車のクラクションの音も聞こえてこないし、道路を渡ろうとすると止まってくれる車までいる。そして、もしそこが横断歩道なら車は必ず止まる。何より驚いたのが、信号がちゃんと機能してるところ

機能しているとは、ただ稼動している、という意味だけではなく、みんなしっかりと信号を守っているのだ

インドから来ると、ある意味カルチャーショックを受ける

姿かたちはインド人そっくりでも、こうしてみると、スリランカは島国特有のゆとりのような物が感じられる。こうなってくると多少物価が高いのもしょうがないのかなとも思ってしまう
 ゲストハウスの目星はついていたが、レストランの看板に出ている食べ物の写真を見ていたら腹が減ってきたので、俺たちは少し早めのランチをとる事にした

オーダーのさい、ビールを頼もうとしたんだけど、置いてないから隣で買ってくるといいと言われた

言われたとおり隣の酒屋に行くと、ビールはあるが冷えていないという

俺が冷えたビールが欲しいと言うと、店先にいた色が黒く細い男が、ここにはないからある所まで案内してやると言ってきた

怪しいとは思ったが、こういうトラブルには慣れてるので、いざとなれば追い払えばいいと思ってついていってみる事にした

男の後を追って歩いていくと、細い路地の様なところを5分ほど歩かされた

こんなに遠いところまで案内してくれるなんて、何か裏があるかめちゃくちゃ親切な人かのどちらかと思ったが、もちろん俺は前者の方を疑っていた。それと同時に何が起こるのだろうかと、少しわくわくもしていた

別にトラブルが好きなわけじゃないけど、何も起らない旅というのも退屈なものである

酒屋につくと、インドでもお馴染み、カウンターが留置所のような鉄格子になっていて、そこに50センチ四方の小さな窓が開けられており、そこに大の男達が右手に現金を握り締めて、顔を突っ込むようにして群がっていた

酒を手にすると、それを大事そうに胸に抱えて、一人また一人とカウンターの小窓から顔を抜き去っていく

俺も同様に小窓に顔を突っ込んで値段を聞くと、一番安いビールでワンボトル380ルピーだという

値段は良く覚えていないが、前日買った値段より大部高いような気がしてならない

俺が、連れてきたくれた男に高くないかと尋ねると「そんな事はない、それがローカルプライスだ」

その言葉を聴いて俺はすぐにピンときた。ローカルプライスがあるという事はそれ以外の高い値段設定があるという事だ。そしてこちらがその事に対して言及していないにも関わらず、向こうからローカルプライスだと押してくる場合は、十中八九外国人からぼったくるための高い値段設定なのだ

俺が試しに店の男に聞くと「それ本当はいくらなの?俺昨日買ったけど、もう少し安かったと思うよ」すると店の男は「値段はそこにいる男に聞いてくれ」と、取り合うとしないし、俺が店員とやり取りを始めると、俺をここまで連れてきた男は慌てて、「そいつは英語が喋れないんだ、値段なら俺に聞け」。。。。これでようやくはっきりした

この男は親切を装い、他の酒屋まで俺を連れて行き、そこで本来の2倍近く高い値段でビールを買わせて、その利鞘をむしりとろうと言う、醜悪極まりない魂胆だったのだ

狙いがわかれば話ははやい

俺は一度窓から顔を抜くと、男の方に向き直り「どうやらお前のお陰で高くなってるみたいだけど・・・」「そんな事はない、これはローカルプライスなんだ」

「第一ローカルプライスってなんだよ?とりあえず帰ってくれるか、お前がいると買えないから」「折角ここまで連れてきてやったのに、帰れってのはあんまりだろ」

「連れてきたのは金のためだろ!!この金の亡者が。いいからとっととうせろ!!」「お前が失せろ」 

この後暫く汚い言葉の投げが合いが続いたが、気の短い俺がそんな口喧嘩に長々と付き合えるはずも無く、数分後には男を突き飛ばしていた

突き飛ばされた男はそのまま捨て台詞を吐いて去っていった

そのままの勢いで、今一度カウンターの小窓に顔を突っ込み、カウンタにーに手を乱暴に叩きつけながら値段を聞くと、200ルピーだと流暢な英語で帰って来た

俺は納得して、400ルピーで2本のビールを買ってジュリアンたちの待つレストランに戻った

人の親切には裏があるというが、その言葉を信じたくなくとも、やはりこの国でも常にそれを頭の片隅においとかないといけないらしい

しかし、これはこの国に対する疲れの始りに過ぎなかった


 小高い丘からのキャンディの街

この街でゲストハウスを探すのに俺たちは全身の骨を複雑骨折するような思いだった

いくら探しても2000ルピー以下のゲストはないし、郊外まで行けば1500ルピーのゲストハウスもあるのだが、町まで出るのに1時間は歩かないといけない。そこでリキシャを使えば結局2000ルピーのゲストハウスに泊まってるのと変わらない

結局俺は一旦ジュリアンたちと別れ、街の中心地にある困ったときのYMCAに言ってみることにした

一回が体育館になっているYMCAホテルでは、その時は中学生くらいの空手クラスが開催されていた

受付で値段を聞くと、ダブルが2000るぴーでシングルが600ルピー

スリランカでは破格の600ルピーである

しかし、この日はシングルがフルでダブルしか空いていないという事だった。どうせどこ行っても2000以下じゃ泊まれないし、次の日シングルが空いたらすぐに移れるとの事だったので、この日は2000ルピーのダブルの部屋に泊まることにした

そして、これはこの日別行動してたジュリアンが、仲良くなったスリランカ人から仕入れてきた情報なんだけど、スリランカ人はゲストハウスでは大体300ルピーくらいしか払っていないらしいのだ

つまりどこのゲストハウスも6倍以上の値段を外国人に吹っかけてる事になる

他にもスリランカ人は路上喫煙が禁止されてるが、外国人は構わないとか、よくわからない規則もあった

ちなみにこの街一番の観光資源は、仏陀の「前歯」が祀られているという寺院

名前は忘れたが、なかなかに立派な建物だったので、入ろうとしたら「外国人 2000ルピー スリランカ人 0」と、いう料金ボードを見て、とっとと立ち去ったのを覚えてる

外国人の方が料金が高いというのはまだしょうがないと受け入れることもできるが、値段の開きがまりにも酷すぎる

高々「前歯」を見るために一泊分の料金を払えるだろうか????

後でジュリアンたちに聞いても、やはり行かなかったみたいだし

俺が前歯ごときに2000も払えるかと言ったら、マエバが大笑いをしていた


                    寺院前の花や

なんとなく、段々とスリランカという国が見えてきた

やはりこの街にもローカルレストランは殆ど無く、街中にあるスーパーマーケットの物価も日本並みに高い

客はもちろん外国人しかいなかった

綺麗な町ではあるんだけど、まったく地元の臭いのしないこのまちは、まるで蝋で作られた偽物のおもちゃの街を歩いているような気分だった

俺たちは誰かにそこに放り込まれて、上からその誰かの見世物になっているのではないか?まるで虫かごに入れられたカブトムシのように。。。。全てが観光用に姿を変えてしまったこの街を、本当に古都と呼べるのだろうか?

ジュリアン達も全く同じ事を感じていた

不振はこの日から日に日に大きくなっていった





2014年5月14日水曜日

行くぞ!!スリランカ!!

はい、毎回久しぶりのブログです
今はアンナプルナから久しぶりにポカラに帰ってきてのんびりしてます
ブログは既に4ヶ月くらい遅れてますが、今日からがんがん書いて遅れを取り戻します
毎回同じことを言っておりますが、今回はマジです





何も決めていなかった。ホテルどころか空港からどこの街に行くかすら決めていなかった

大概は何でも揃う首都にでも行くのが普通なんだろうけど、毎回のパターンにも飽きてきていたので、空港からそう離れていない小さな町にでも行ってみようかと思っていたのだけど、その小さな町がどこにあるかとか、目星すらついていなかった

空港から出るとインド人と同じ顔したオートリキシャ(三輪タクシー)のオヤジが法外な料金(多分)で客引きしてくるが、断ると、あっさり引き下がりすぎるのにも物足りなさを感じながら、近くのバス停へと人に道を聞きながら向った

とりあえず適当にバスに乗って、気に入ったところがあればそこで降りてみればいいかと思っていた

こんな書き方をすると、いつもの事のように聞こえるが、実際は初めてだ

今までは、少なくとも国境を超えるときは、次に向う街をネットで調べたり、予約まではしなくとも、安宿街がどこら辺にあるのかとかは調べてから移動してた。しかし、旅も一年を超えると段々いい意味でも悪い意味でも慣れが生じる。その結果、「なんとかなるだろう」と頭の中でつぶやいて、横着をするようになっていく

右も左もわからぬままバス停に向いながら、やはり最初に向う街くらいは決めておくべきだったかと、少し後悔した

バス停に向って歩いていると、前を2人のバックパッカー風の男女が歩いているので、何か情報を聞けないかと思って話しかけてみた

「こんにちは、これから何処に向うの?」いきなり後ろから話しかけれら、驚いたように振り向いた男の方が「おお 君は何処から?」 

「俺は日本から、そっちはフランスでしょ?」「なんでわかったの?」「英語のアクセントがフランスっぽいから」「ああ、俺たちはこれからニゴンボっていう、ここからバスで30分くらいの町に向おうと思ってるんだよ」

「何があるの?宿は目星着いてるの?」「ああ、宿はネットで探して一番安いところを抑えてある。ニゴンボは所謂ビーチリゾートみたいな所だよ。首都のコロンボは高いし、何も無いって聞いたから今回はとばしてしまおうかと思って」

しめたと思った。彼等についていけば、とりあえず今晩の宿は何とかなりそうだし、一番安い宿ならバックパッカーも集まるだろうから、今後の情報集めもできると思った

「じゃあ俺もご一緒させてもらおうかな、何も決めてなかったから」「じゃあとりあえずまずはバス停を探そう」

俺たち3人は話しながらバス停を探した。二人はカップルで旅をしていて、男のボーズ頭で体の線が細い方がジュリアンで、肌が浅黒く、顔も欧米人らしからぬ女の方がマエバ

俺が「マエバ」と言う名前を聞いた瞬間に、一瞬訝しげな顔をしたのを彼女は見逃さなかった

日本語で「前歯」がどう意味か知っていたらしく、にっこり笑って自分の前歯を見せてきた

というのも、つい数ヶ月前までこの2人はオーストラリアでワーキングホリデーとして2年近く働いていたらしく、その時に日本人との交流が結構あっただとかで、日本文化には結構くわしいし、俺の事も聞く前から多分日本人だと思ったらしい

ちなみにマエバは父がフランス領のポリネシア系出身で、母親は韓国人で、本人はフランス本土育ちという事だったが、見かけからは半分も韓国の血が入っているようには見えない

バスは予定通り30分後にはニゴンボのバスーターミナルに到着したが、宿がどこにあるかは誰も皆目検討がつかなかった

そんな時はオートリキシャの出番である。ジュリアンが早速道端にたむろしているリキシャの運転手と交渉を始めたが、見てると交渉が下手で結局言い値とほとんど変わらない300スリランカルピー(240円)で乗る羽目になってしまった

こんな事なら俺が交渉すればよかったとも思うが、いつも数人でいるときは口を出さないようにしている

俺はとに角一度は断る事にしている。断って交渉を放り投げ、運転手に背を向け、後ろから追いかけてくるのを期待して歩き出すのだ。そうすると、大抵は追いかけてきて、こちらの言い値になるのだが、ごくたまにそのまま放置されることがある。そうなると戻って交渉をしなおすのもかっこ悪いので、歩いていくしかなくなる

俺一人ならそれでいいが、何人も人がいると巻き込みかねないので、そういう時は交渉を任せてしまう。たとえ相場より高くても、人数で割れば結局安くなるのだから、文句は頭の中でつぶやくだけにしている

ちなみに後日この町に戻ってきたときに、俺が一人で交渉して乗ったら100ルピーだった。三分の一だ。ジュリアンがどれだけ交渉が下手くそなのかがわかるだろう。俺は特別な交渉術なんて持っていない。皆がやっている常套手段を使っているだけなんだから

宿に着くとリキシャのドライバーは満足そうに300ルピーを右手で掴んで、もと来た道を引き返していった

宿の部屋は俺の分もあるが、一部屋ではなく、一つのベッドで1300ルピー。暴力的な高さに一瞬思考回路が停止したが、ここが一番安いなら、これがスリランカの物価だと受け止めて、諦めて泊まるしかなさそうだ

 1300ルピーは600インドルピー

北インドで600ルピーも出せば、冷房付きの綺麗な部屋に一泊できる。けっして一つのベッドではない

それでも宿はそこそこ綺麗で、ホットシャワーも完備されていた。お湯のシャワーを浴びるなんて一体何ヶ月振りだろうか??

ドミトリーは8ベッドの部屋で、既に2人のスリランカの旅を終えた先客たちがいた

この2人から情報を集めた後、別の部屋に泊まってるジュリアンカップルと合流して、少し遅めの夕食を食べに出かけた

ゲストハウスのすぐ裏はビーチと絶好のロケーションなのだが、着いたころには煌々と真っ赤に燃える夕陽も、終わりかけの線香花火のように、力なくその姿をほとんど地平線に鎮めていたので、この時はビーチがあることすら気がつかなかった

宿の前は所謂ツーリスト通りになっていて、スリランカの特産品、宝石店を筆頭に、ツーリスト向けの洋服や小物を扱ったみやげ物屋が軒を連ねていた。その殆どの店が小奇麗で、商品の陳列などにも気を使っているのがわかる

東南アジアやインドのこういった類の店だと、建物は馬小屋と区別がつかなく、商品の陳列も倉庫なのか店先なのか区別がつかないくらい雑に放り投げられていることが殆どなんだから

洒落た街路灯が両脇で道路を飾り、それぞれの店先のクリスマスのような派手すぎないネオンが協力するように一定間隔で点滅しながら、初めてスリランカの地に足を踏み入れるツーリストを歓迎しているようだった

地元の人が頻繁に通うようなローカルレストランはいくら歩いても見当たらなかった。どこまであるいても高そうな小洒落たレストラン

ジュリアン達も俺も長旅が予想されるだけあって、ローカルレストランで金を節約したい気持ちは一緒だったし、今までの経験だと、小汚いローカルも洒落たレストランも味には大して差はない。雰囲気が違うだけ

この日はローカルレストランを諦め、適当なレストランに入った



この日は疲れていたため、酒はあっという間に俺の脳を支配していった

酔っ払ったスリランカ人2人に絡まれたが、既にボトルを2本飲み干していた俺は、数分後には逆に絡み返していた

そのなかでも、金の節約と一切酒には手をつけない2人は冷静だった

こうしてアホなスリランカ人と酔っ払って騒ぎながら、一日目の夜は慌しくも、平和に過ぎていった