2014年5月30日金曜日

天空を駆ける鉄道



俺が泊まっていたYMCAは南京虫の巣窟だった。しかも、電気を消すと行動を始めるのが普通だが、どうも相当腹が減っているのか電気をつけていても襲ってくるアグレッシブさ

お陰で一晩中南京虫を潰すのに必死になりすぎて一睡もできなかった

次の日、レセプションに詰めていた初老の男にクレームを入れると、他に空き部屋は無く、部屋の交換ができないから、すぐに殺虫剤を買ってきて対処すると言った、その対応は悪くない

今までは、お前が連れてきたんだと人のせいにしたり、それは蚊だといいはり、一向に認めようとしなかったり、酷い宿は数多くあった。それに比べればなかなかまともである

自分でやらないと気がすまない俺は、宿の男が買ってきた殺虫剤だけをもらって、自分のベッドの隅から隅まで、部屋の隅から隅まで、余ったらバックパックにもたっぷりとかけた

しかし、その効果はなく、その夜も南京との仁義無き戦いは果てしなく続くインドの荒野のように続いた

結局これが原因でキャンディを次の日出ることにした俺は、それをジュリアンたちに伝えた

すると彼らもこれから列車のチケットを買いに行くところだった

次の目的地は俺も、彼らもヌワラエリア、スリランカの紅茶の里だ

なので俺の分の切符も買ってくるように二人に頼んだ

しかし、数時間後にまるで今さっき喧嘩したようなふくれっ面で戻ってきた二人は切符を買っていなかった。訳を聞くと鉄道員にぼったくられそうになったらしい

切符の値段を聞くと一人400ルピー。3時間程度の移動で400ルピーはおかしいと思ったジュリアンたちは、カウンターの後ろに貼ってある料金表をみつけ、指を刺して指摘しらしいのだ

するとどうだろうか?指摘された鉄道員は背中で料金表を隠してしまい、400ルピーと譲らなかったらしい。この国は腐っている

結局俺たちは次の日、乗車直前に切符を買った。買う際に値段を聞かずに、ヌワラエリアまでの普通席と言って120ルピーを先に出したらあっさりと買う事ができた

この国では料金を聞くとぼったくられる。なんでも買う前に正しい料金を知っておかないといけないのだ。それ自体がとてつもなく疲れる腐った国である

国は観光腐りしていても、鉄道からの景色はインド同様素晴らしかった

キャンディが始発の俺たちが乗った鈍行列車はまだそこまで混んでおらず、自由席でも十分に席を確保でき、俺は2人とはちょっと離れた窓際の席についた。キャンディからヌワラエリヤまでは約3時間の鉄道の旅。距離は大したことないが、山の中を走るのでどうしても時間がかかるらしい


列車は発車すると、紙芝居のように次から次へと忙しく景色をめくっていった。キャンディの街中を抜け、太陽に向って大きく両の手を広げた森の中に入り、平原に出ると、のんびりとした感情を持ってうねっている優雅な曲線の丘を横目に、眼前に新緑が美しい山が徐々に迫ってきた

列車は間もなく山の谷間に進入していった。すると両サイドには既に茶葉の大プランテーションが広がり、谷一面が火口湖のようなエメラルドグリーン一色に染められており、谷から吹き下ろす風に首を右に左にもたげている

その谷に広がった大プランテーションを一目見ようと、乗っていた観光客は皆一様に席を立ち始めた。席を立ってうろうろするもの、座席でスナックを食べ始める現地人、入り口に身を乗り出して写真を撮る者、居眠りをする者、車内はまるで園バスのように秩序がなくなってきたが、それはそれで面白い。客は自分なりに楽しんでいるのだから。それを迷惑に感じるような者もいないようだし


 列車は谷間を一時間ほど走ると、今度はその谷の左サイドをナメクジのようにのそのそと登っていった

景色はどんどん開け、やがて谷の左側の尾根に飛び出すと、丘がいくつもの起伏となって一連に連なり、その全てが茶葉で覆われていた。

尾根から見下ろすと、豊かな海のようにも見える一面の茶畑



車窓からの眺め




列車から降りると、ヌワラエリヤの町までは更にローカルバスに乗らないといけなかった。バスは丁度列車から吐き出された観光客を全て乗せ終えると、重苦しいエンジン音と共に発車した

バスに乗っている時に、体がバスに入りきらなくて、体半分外に飛び出た上体で乗っていた中国人のヤンと世間話をしてて、その流れでヌワラエリヤに着いてから、部屋をシェアする事になった

ジュリアン達も同じホテルに泊まる事になったが、ヤンは急ぎの旅らしく、次の日には街を出ることになっていたので、既に16時を周っていると言うのに、リキシャをチャーターして大急ぎで観光に出かけてしまった。そのため俺たちは差ほど仲良くなる事も無く、ヤンは次の日の朝発って行った

ヌワラエリヤの町は、中心街に小さなマーケットや銀行、スーパーなどがかたまっていて、中心街から500メートルも外に出ると、民家がポツポツとあるような、小さくまとまって歩き易い町
町はそれなりに小奇麗に整備されていて、すこし離れたところには公園を併設した湖などもある

三人で湖に行った時にジュリアンが一言「どうせ人口湖だろ」と、ぼそっと言った

彼のこの言葉の「どうせ」には、この町も観光客用に整備された、造られた町だと言う皮肉がこめられていた。確かに湖自体も人口湖のようだったし、町外れには外国人向けのレストランが目立つし、ゴルフ場まであった。ジュリアンの皮肉も実に的を得ているといわざるを得ない

湖には日本でもお馴染みのアヒルの足こぎボートが20艘程浮かべられていて、時間貸しをしている。俺はジュリアンとどうせまた外国人と現地人の値段が全然違うんだろうと言う話になり、験しに値段を尋ねてみた

値段はなんと2500ルピー(約2000円)。日本でもせいぜい数百円で乗れそうなものだ。現地人用の値段も聞いてみたが、料金は同じだと言ってがんとして譲らなかったし、その煩わしそうな対応の仕方を見ていると、同じような質問をいつもされているようだった

近くのカフェで再度値段を聞くと、現地人は800ルピー(640円)。それでも高いが、外人用の値段とは確たる差である

他にもこの町、短い滞在中にうんざりするような事はたっぷりあった

ジュリアン達と別行動をとっていた時の話である

外国人向けのレストランはとに角高いので、なるべく子汚い店構えのローカル食堂を探して、その日の夕食をとることにした

スリランカ人の一般の食事は、基本的にはライスアンドカリーと呼ばれる、ライスに数種類のカレーと、野菜の小鉢が数種類付いて来るセット料理だけだ。この料理が一番安くボリュームもあり経済的なのだ

俺はその子汚い食堂の恰幅のいい中年の女に値段を尋ねると、顔を宙に向け暫しの間を空けてから250ルピーだと言ってきた

カレーアンドライスの値段は現地価格で100~150程度が平均。もちろん高く言ってきているのは分かっていたが、子汚いローカル食堂をこの町で探すのも一苦労だったので、この日はその値段で手を打つことにした

一応フィッシュカリーにしてくれないかと頼んでみたが、魚がないとの事で断られた

席について10分後に運ばれて来たのは、ガイドブックの見本とは似ても似つかない、家庭の三角コーナーに溜まっている残飯を、白米にぶっ掛け様なお粗末なものだった。味も見かけどおり。相場より高いのだからせめて味くらいまともであって欲しかった

気になったのはその残飯丼の頂上に載っていた小指くらいの茶色い塊?ためしに食べてみたが、水分が完全にとんでいて、ぱさぱさしすぎてなんだったのかわからない

そしてうっとおしいのはここからだ

会計の書かれたレシートをみると450ルピーと記載されている・・・

俺が「このレシートはなんだ?」と、尋ねると、デブ婆は「会計よ、450ルピーね」

「は?カレーアンドライスで250ルピーだろ?最初と随分値段が違うようだけど、どういう事?」と、あくまで冷静に聞いた。すると「あなた魚欲しいって言ったでしょ?だから魚をつけて450ルピーになったの OK?」

何がOK?だ! 全く持って意味がわからない。恐らくあのゴミ丼の上に乗っていたダニのクソみたいな物体を魚だと言っているのだろう。仮にあれが魚だとしても200ルピーの値上がりは法外だし、こちらに何も言わないで勝手に会計を変えるのも、正に人知を超えた外道の行ないといわねばならぬだろう

俺は一言「払わない」と、言い放った。会計を元通りに書き換えるか、金を払わないか、どっちかだと、静かに言った

するとババアはみるみる表情が変わり始めた。髪の生え際が抜け上がるばかりにドギツイ静脈を額にうねらせ、目には角が生えてきた。そして醜い言い争いが始るかと思ったが、俺はなぜか腹があまり立たなかった。いつもなら頭に血が登りそろそろカウンターを蹴飛ばすころだが、あまりのババアの強欲振りと、それから出てきた理不尽さが手伝って、この目の前で騒いでいる生き物が滑稽で可哀想に思えてきた

だから俺は無表情にただ「払わない」と、会計を拒み続けた

その間もババアは泥棒だとか、警察呼ぶとか、わめき続けたが、俺は何も言わず、ただ冷たい目でババアを哀れむように眺めているだけだった

さっきから傍観を決め込んでいた現地人の客はババアが一人で興奮してる様子を見て、笑い始め、後ろで作業をしていた旦那と思わしき男も笑い始めた

これで、この中にババアの味方をする奴は身内ですらいなくなった

形成が不利だと判断したか、声が少し小さくなったが、まだ諦めていないようだった。見かねた旦那と思わしき男が、俺に、もう250でいいからねと、笑いながら親切そうな顔で言ってきたが、俺は無表情のまま「当たり前だ」と、一言静かに言った

それでようやくババアも諦めたのか、「とっとと250ルピーよこしな!!」と、乱暴に言い放った

俺はそのまま金を投げてやりたいとこだったが、生憎1000ルピー札しかなかった。そのまま渡すのは危険だと思い、釣を先によこすように言った

するとババアはまた怒り始め、その怒った勢いで外に釣をかき集めに行ってしまった

数分後に戻ってきたババアから先に釣を受け取ると、1000ルピを渡し「greedy pig」と一言言って店を後にした

後ろからはモンスターの断末魔のような叫び声が、スリランカのねっとりした空気に絡まって耳障りに響いた

その帰りに近くのレストランに水を買うためによった。会計の際、水が少し高かったので、嫌味で「これは外国人専用の値段なんだね」っていうと、レジの若い女が「それは冷えてるからです」と、いうので

「じゃあそこにあるぬるいやつくれる?もちろん冷えてないから安いんでしょ?」と、カウンターに並んでた、冷えてない水を指差して言って見た

「いや、同じです。ここはレストランなんで・・・」 「あれ?でも今冷えてるから高いって言わなかった?嘘ついたの?」

「いえ、嘘ではなく・・・」「じゃあなんで冷えてるから値段が違うっていったの?説明できる?」

女は黙ってしまった。もちろんレストランで買えば通常より高いのは当たり前だし、そんなのはわかっていた

ただなんて答えるか聞いて見たかっただけだ。とはいえ、少しいじめ過ぎたかと後で反省しなくも無かった

他にもあげればキリが無いが、俺たち3人でバスに乗って紅茶工場の見学に行った帰りの話

バスの料金が行きと違うので、もちろん俺たちはその事を指摘したが、バスの運転手は料金は同じだと言うばかりで譲ろうとしない

バスに乗っていた他の白人ツーリストも一様に騒ぎ始めた

するとドライバーが証拠はあるのか?と、言うので、ジュリアンがとってあった行きのバスチケットのレシートをドライバーに見せた

ドライバーは表情一つ変えずに、じゃあお前はこの料金でいい。レシートもってない奴は俺の言い値を払え

さすがにこの横柄な態度には乗客全員が激怒し、全員でバスのドライバーに詰め寄り、味方のいないドライバーはふてくをされながら諦めざるを得なかった

こんな事が毎日続くわけです・・・・




茶園で飲んだスリランカティー

この工場でもやはいり観光客価格

なんとスリランカティーが100gで2000ルピー(1600円) あのダージリンでさえ中級クラスで精々100gで500円程度だ

スリランカティーはどっちかというと、質より生産量を重視しているのだから、質を重視しているダージリンティーより高い理由がない

その証拠に現地人が行くようなスーパーで、同じくらいの質の紅茶が200g200ルピーで売っていた

確かにパッケージはとても立派だった。その見かけに騙されて、紅茶を知らない観光客が記念に買っていくのだろう

俺の目の前でも、この1パック2000ルピーもする紅茶を大量に買い占めていた韓国人がいたのだから

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