朝、ゲストハウスの裏にある、誰もいないビーチを散歩した
沖にはスポーツ用のヨットが何艘か浮いていて、湾曲したビーチの向こう側には、無表情なコンクリートの建築郡の首都のコロンボが、柔らかく粉のように白っぽい朝の陽ざしに照らされて、うっすらと見えていた
ゲストハウスに戻ると、ジュリアンカップルが荷物をまとめて、ロビーで朝食をとっている最中だった
「どこ行くか決めた?」「いやまだ決まってないんだ、ここはチェックアウトしようと思ってんだけど」
「俺はキャンディに行く事にしたよ、ここからそうは離れていないし、列車のターミナル駅にもなってるからどこ行くにも便利らしいから」 「そうなんだ、実は俺たちもそこに行く事を考えていたところなんだよ」
「そうなんだ。じゃあ一緒に出ようか?俺朝まだ食べてないからちょっとまっててよ」「ごゆっくり~」
とういうと、俺はトースターでパンを焼いて、バターに砂糖をたっぷり塗ったやつを2枚平らげて、パッキングを済ませて彼等と宿を出た
キャンディはスリランカの古都らしく、なにがあるのかは分からなかったが、とに角ガイドブックを開けばトップページに出てくるような、スリランカでも人気の観光地らしい
交通の便もいいから、あとからいくらでもフレキシブルに計画を立てれるし、なによりもキャンディという名前が覚えやすくて良かった
バスターミナルに到着すると10以上のバスの発着ゲートがあった。近くにいた人にどのバスに乗ったらいいか教えてもらい、 俺たちは止まっているバスに乗り込んだ
30分後にバスはキャンディに向って出発した。出発するとチケットコンダクターが乗客から行き先別に乗車料金を徴収し始めた
俺たちのところまで来たチケットコンダクターは運賃の他に、荷物量を一人50ルピーずつ請求してきた
うっかり払ってしまったが、おかしいと思ったのは俺だけではなく、2人とも不振極まりない顔をしていた
俺「俺うっかり無意識で払っちゃったけど、あれ完全にぼったくりでしょ」マエバ「私もそう思う、前に座ってるおじさん荷物預けてたけど、運賃しか払ってなかったし。私達が払った運賃だって正規の料金なのか怪しいところね」
とはいえ、払ってしまったものはしょうがない。払う前に突っぱねるのは簡単だが、払ってしまったものを取り返すのは並大抵のことではない
ここは貧乏なコンダクターに恵んでやったと思って諦めるしか無いのだろう。こういうコスイ所はインドそっくりである
数時間バスに揺られ、俺たちはキャンディの中心地から10分ほど離れた所にある、バスターミナルで下ろされた
3人で大きなバックパックを背負って街中を歩く姿は、アジサイの花の上を這い上がるカタツムリのように見える。その中でも俺のバックパックはひときわでかい
キャンディの中心地に入っていくと、ネイキッドバイクのように中身むき出しの露店が歩道を半分くらい占領していて、その半分の歩道は行き交う人で埋まっており、いい感じのごたごた感が出ていたが、歩くのにそれほど苦労はしなかった
恐らくウンコやゴミがインドのように落ちていないからだろう
街中からはききなれている車のクラクションの音も聞こえてこないし、道路を渡ろうとすると止まってくれる車までいる。そして、もしそこが横断歩道なら車は必ず止まる。何より驚いたのが、信号がちゃんと機能してるところ
機能しているとは、ただ稼動している、という意味だけではなく、みんなしっかりと信号を守っているのだ
インドから来ると、ある意味カルチャーショックを受ける
姿かたちはインド人そっくりでも、こうしてみると、スリランカは島国特有のゆとりのような物が感じられる。こうなってくると多少物価が高いのもしょうがないのかなとも思ってしまう
ゲストハウスの目星はついていたが、レストランの看板に出ている食べ物の写真を見ていたら腹が減ってきたので、俺たちは少し早めのランチをとる事にした
オーダーのさい、ビールを頼もうとしたんだけど、置いてないから隣で買ってくるといいと言われた
言われたとおり隣の酒屋に行くと、ビールはあるが冷えていないという
俺が冷えたビールが欲しいと言うと、店先にいた色が黒く細い男が、ここにはないからある所まで案内してやると言ってきた
怪しいとは思ったが、こういうトラブルには慣れてるので、いざとなれば追い払えばいいと思ってついていってみる事にした
男の後を追って歩いていくと、細い路地の様なところを5分ほど歩かされた
こんなに遠いところまで案内してくれるなんて、何か裏があるかめちゃくちゃ親切な人かのどちらかと思ったが、もちろん俺は前者の方を疑っていた。それと同時に何が起こるのだろうかと、少しわくわくもしていた
別にトラブルが好きなわけじゃないけど、何も起らない旅というのも退屈なものである
酒屋につくと、インドでもお馴染み、カウンターが留置所のような鉄格子になっていて、そこに50センチ四方の小さな窓が開けられており、そこに大の男達が右手に現金を握り締めて、顔を突っ込むようにして群がっていた
酒を手にすると、それを大事そうに胸に抱えて、一人また一人とカウンターの小窓から顔を抜き去っていく
俺も同様に小窓に顔を突っ込んで値段を聞くと、一番安いビールでワンボトル380ルピーだという
値段は良く覚えていないが、前日買った値段より大部高いような気がしてならない
俺が、連れてきたくれた男に高くないかと尋ねると「そんな事はない、それがローカルプライスだ」
その言葉を聴いて俺はすぐにピンときた。ローカルプライスがあるという事はそれ以外の高い値段設定があるという事だ。そしてこちらがその事に対して言及していないにも関わらず、向こうからローカルプライスだと押してくる場合は、十中八九外国人からぼったくるための高い値段設定なのだ
俺が試しに店の男に聞くと「それ本当はいくらなの?俺昨日買ったけど、もう少し安かったと思うよ」すると店の男は「値段はそこにいる男に聞いてくれ」と、取り合うとしないし、俺が店員とやり取りを始めると、俺をここまで連れてきた男は慌てて、「そいつは英語が喋れないんだ、値段なら俺に聞け」。。。。これでようやくはっきりした
この男は親切を装い、他の酒屋まで俺を連れて行き、そこで本来の2倍近く高い値段でビールを買わせて、その利鞘をむしりとろうと言う、醜悪極まりない魂胆だったのだ
狙いがわかれば話ははやい
俺は一度窓から顔を抜くと、男の方に向き直り「どうやらお前のお陰で高くなってるみたいだけど・・・」「そんな事はない、これはローカルプライスなんだ」
「第一ローカルプライスってなんだよ?とりあえず帰ってくれるか、お前がいると買えないから」「折角ここまで連れてきてやったのに、帰れってのはあんまりだろ」
「連れてきたのは金のためだろ!!この金の亡者が。いいからとっととうせろ!!」「お前が失せろ」
この後暫く汚い言葉の投げが合いが続いたが、気の短い俺がそんな口喧嘩に長々と付き合えるはずも無く、数分後には男を突き飛ばしていた
突き飛ばされた男はそのまま捨て台詞を吐いて去っていった
そのままの勢いで、今一度カウンターの小窓に顔を突っ込み、カウンタにーに手を乱暴に叩きつけながら値段を聞くと、200ルピーだと流暢な英語で帰って来た
俺は納得して、400ルピーで2本のビールを買ってジュリアンたちの待つレストランに戻った
人の親切には裏があるというが、その言葉を信じたくなくとも、やはりこの国でも常にそれを頭の片隅においとかないといけないらしい
しかし、これはこの国に対する疲れの始りに過ぎなかった
小高い丘からのキャンディの街
この街でゲストハウスを探すのに俺たちは全身の骨を複雑骨折するような思いだった
いくら探しても2000ルピー以下のゲストはないし、郊外まで行けば1500ルピーのゲストハウスもあるのだが、町まで出るのに1時間は歩かないといけない。そこでリキシャを使えば結局2000ルピーのゲストハウスに泊まってるのと変わらない
結局俺は一旦ジュリアンたちと別れ、街の中心地にある困ったときのYMCAに言ってみることにした
一回が体育館になっているYMCAホテルでは、その時は中学生くらいの空手クラスが開催されていた
受付で値段を聞くと、ダブルが2000るぴーでシングルが600ルピー
スリランカでは破格の600ルピーである
しかし、この日はシングルがフルでダブルしか空いていないという事だった。どうせどこ行っても2000以下じゃ泊まれないし、次の日シングルが空いたらすぐに移れるとの事だったので、この日は2000ルピーのダブルの部屋に泊まることにした
そして、これはこの日別行動してたジュリアンが、仲良くなったスリランカ人から仕入れてきた情報なんだけど、スリランカ人はゲストハウスでは大体300ルピーくらいしか払っていないらしいのだ
つまりどこのゲストハウスも6倍以上の値段を外国人に吹っかけてる事になる
他にもスリランカ人は路上喫煙が禁止されてるが、外国人は構わないとか、よくわからない規則もあった
ちなみにこの街一番の観光資源は、仏陀の「前歯」が祀られているという寺院
名前は忘れたが、なかなかに立派な建物だったので、入ろうとしたら「外国人 2000ルピー スリランカ人 0」と、いう料金ボードを見て、とっとと立ち去ったのを覚えてる
外国人の方が料金が高いというのはまだしょうがないと受け入れることもできるが、値段の開きがまりにも酷すぎる
高々「前歯」を見るために一泊分の料金を払えるだろうか????
後でジュリアンたちに聞いても、やはり行かなかったみたいだし
俺が前歯ごときに2000も払えるかと言ったら、マエバが大笑いをしていた
寺院前の花や
なんとなく、段々とスリランカという国が見えてきた
やはりこの街にもローカルレストランは殆ど無く、街中にあるスーパーマーケットの物価も日本並みに高い
客はもちろん外国人しかいなかった
綺麗な町ではあるんだけど、まったく地元の臭いのしないこのまちは、まるで蝋で作られた偽物のおもちゃの街を歩いているような気分だった
俺たちは誰かにそこに放り込まれて、上からその誰かの見世物になっているのではないか?まるで虫かごに入れられたカブトムシのように。。。。全てが観光用に姿を変えてしまったこの街を、本当に古都と呼べるのだろうか?
ジュリアン達も全く同じ事を感じていた
不振はこの日から日に日に大きくなっていった
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