読書をしながら電車に揺られる。実に優雅だ。例えSL車両であっても満席じゃなければ実に快適な旅が約束される
葉加瀬たろうのバイオリンを聴きながらインドの車窓に浸る。目をつぶると田園風景がまぶたの裏に浮かび上がり音符が踊りだし、目を開けると眼球の表面に本物の田園の風景が飛び込んでくる
開けても閉じても田園風景。まるでポルノ映画を見ながらエロ本を読んでいるようじゃないか!! す て き
爽やかリッチパッカーインドの車窓を行く、こんなタイトルがしっくりくる
今までのインドの旅は偽者だ、思い出したくも無い。あれは無かった事にしよう。これからは優雅に爽やかに、今までの記憶は消してしまおう。日記も消してしまおう。
たまに通路を通る売り子からチャイを5ルピーで買い、窓の外を眺めながら目をつぶる。日本を出てからの事、日本にいたときの事。そんな事を思い出してみるのもいい
「さー さー」 ん? なんだ?人様が感傷に浸っているのを邪魔するやつは
「さーチケット」 車掌か。。。。インドの列車は駅に入るときに改札が無い代わりに、電車に乗ると車掌がこのように一人一人のチケットを確認してまわっているのだ
「さあ これが爽やかリッチパッカーの爽やかチケットだ、穴が開くまでじっくりと見て行きやがれ」
車掌は俺のチケットを取り上げて確認したかと思うと一言「ふん」と、鼻で笑い飛ばして、俺にチケットを返した
「あああ ああああ お前今鼻で俺のチケット笑ったなああ?? お前知ってるか?日本では鼻で笑い飛ばすってことはだな、相手をバカにしてるってことなんだぞ!!」っていうか、そこはインドでも同じである
車掌「irtuvnidndvunisc;msvoi,jctocs,s;opitbn;oavs;to」 うん、全力ヒンディー語だな、これ。「あの俺英語と日本語とタガロフ語しか解らないんだけど」
車掌「aldkfjer;oifuvrdoiguvmsdo bnjdfo;lgivjmrd;ogivjd,;vogkf,;gkld;lbnjvrso;vimrjyoirjmc;osidjvfmklsicu;as」・・・・・
駄目だこりゃ、さっぱりわからん。でも俺の乗っている電車が間違っているってことだけはわかった。「ありがとう、教えてくれて」と、言うと、車掌は満足そうに頷いて去っていった
「・・・・・って、ちょっと待たんか!!こらぁぁぁぁぁぁ!!」間違ってたら普通今いる場所とか、何処で降りたらいいかとか、今何処へ向っているとか、助言するでしょうが!!普通
鼻で笑って宣告だけしてそのままいくって、お前は死神か!!
とにかく車掌にどうしたらいいか聞くのだが、お互い意思の疎通が取れなくてどうにもならない。電車の車掌が全く英語喋れないって始めて。しかも、デリーバラナシを通っている路線は外国人も頻繁に利用するのだから普通喋れて当たり前である。これが田舎ならヒンディー語を喋れない自分がを呪うところだが
気は全く利かないが人のいい車掌は英語のちょっと喋れるインド人を連れてきてくれた
早速質問してみた「あの、今どこに向っているんですか?」インド人「お前の電車は間違っている」
「あの それはわかっているんですけど、何処で降りたらいいんですか?」「お前のチケットは間違っている」
「いや、だからそれはわかっているんですよ、現在地を知りたいんですよ」「お前のチケットと電車は間違っている」
「いや、それはさっき車掌に教えてもらったし。俺が知りたいのはこれからどうするべきかなんですよ」「お前は全て間違っている」
「じゃかしいわーーーーー!!ボケ!!んなことはわかっとるわーーー!!昨日生まれたんじゃねぇんだよ!!」と、心の中で叫んだ
どうやらこのインド人、英語は少しだけ喋れるみたいだけど、聞く事ができないらしい
こんなやり取りを繰り返していると、いつの間にか俺の席の周りに7人くらいのインド人が集まってきて、なにやらあーでもない、こーでもないと相談している
そして結果的にその内の何人かが次の駅で降りるから、ついて来いと言ってるとこまでは分かった。疑っている場合でもないので素直に従うことにした
次の駅で下車後、俺の乗るべき電車の名前と車両番号を書いた紙を渡して彼らはそれぞれの家へと帰って行った。なんだ、それだけかと思うかもしれないけど、インドではこの列車の番号が全てなのだ。これさえ合っていれば全てうまく行くのだ
俺が降りた駅はプラットフォームが4つしかない小さな駅で、電光掲示板などもない。書いてもらった電車がいつ来るのかも分からないが、とりあえず駅の隅に時刻表だけはあったので確認するも、全てヒンディー語で書かれているためよくわからに
時刻表の前で首を傾げてると、若いインド人の2人組みが、どうしたんだと声を掛けてきたので、列車番号の書いてある紙を見せたら二人でなにやら相談を始めた、するとまたその辺のインド人が集まって来て10人位に囲まれた
皆で数分相談したかと思うと、皆一斉に顔をあげ、何か言いながら俺の方を見た。どうやら裁決は下ったようだ
「よし、わかったんだな?さあ教えてくれ、何番プラットフォームだ?」
すると全員手を上に上げ、人差し指を使ったかと思うと、それぞれ別々のプラットフォームを指差した「こらぁぁぁぁ 真面目にやれ!!」
この指止まれゲームしてんじゃねぇんだよ!!あっ、じゃあ俺その3番目の指に止まる~とーまった えい!! 「こらぁぁぁぁぁ 真面目にやれ!!俺」
いやいや、怒っちゃいけない、こいつらに悪気はないんだ。みんな俺のために相談した結果、こうなったのだ。でもこれじゃ何処言ったらいいかわからん
しかも違うプラットフォーム指したインド人同士で喧嘩(激しい口論)が始った。面倒くさいので放置して、その場をそっと去った
とに角イングリッシュスピーカーが必要だ。俺は喧嘩してるインド人を背に、身なりの良いインド人を探した
かっぷくが良く、アイロンのかけられた綺麗なシャツを纏い、皮のベルトに締められたピンと張りのあるズボン、ホームの景色が写りこむほどにピカピカに磨きあがられた革靴。そして決め手となったのが、尖がった眼鏡だ
間違いない!!金持ちで育ちがいい。育ちの良いリッチパッカーの感である。尖がった眼鏡は金持ちの証なのだ!!誰がなんと言おうと、例えウルトラマンがかめはめ波を打とうが、ここだけは譲れない
早速丁寧な英語で話しかけてみるとビンゴ!!英語がペラペラである。しかも電車の番号を見せると、ちょっとここで待っていなさいと言って消え、5分後に戻って来たかと思うと、同じ電車だから一緒に乗ろうと言ってくれた
電車はその1時間後にホームに到着。乗るだんになって、「ところで君切符はあるのか?」俺「へ?」
「電車に乗るんだから切符が必要だ」。。。そりゃそうだ うん 。。。。って、もっと早く言えーーーーーー!!やっぱそこはインド人である
結局時間も無かったので、切符の無いまま電車に乗り込む羽目になった。何とかなるだろうと思って
更にこのインド人、途中のバラナシで降りるらしく(俺は一回バラナシに戻らないといけないらしい)、俺と一緒にガヤ駅まで行ってくれる人を探してくれたのだ
そして彼が見つけたのがまだ学生のインド人。英語もある程度喋れる。そして、なんと俺の分のチケットも持っているのだ
どういうことかというと、途中の駅で友達と合流する約束らしく、その前に切符のチェックが入るので、その友達のチケットを使って俺のチェックをパスしてしまおうと言う事である
そんな上手く行くのか怪しいが、彼に任せることにした
彼の名前はAといい、コルカタの近くに住んでいるらしい。性格は凄くシャイで、俺がそっぽを向いてる時に、勝手にツーショット写真を撮ったりするくらいである。言ってくれればいくらでも応じるのに。
そして同じSL席のコンパートメントに座っていたのが、ちょっとガラの悪いインド人の3人組
いつもなら話しかけられても、言葉がわからないので、無視するか笑うくらいしかできないんだけど、Aが通訳してくれるので結構面白い
しかもそのうちの一人がこっそりウイスキーのボトルを取り出して飲み始めた。飲み方を見ているかぎり、ここでの飲酒は禁止されているようだ
そしてコップいっぱい並々と注がれたウイスキーが、大海原で波打つ潮のようにたっぷんたっぷんとウェーブしなが俺の方に周ってきた。飲めと。
ありがたく一気飲みにさせて頂いた。そうすると友達の一人が「これは200ルピーするから、お前払わないと駄目だぞ」と、笑いながら俺に言う
なんだ、タダじゃないのかと思ったが、結局それ以降一回も請求されなかった
どうやら冗談だったみたいだけど、インド人のこう言う冗談が理解できない。本気なのか、冗談なのか。ジェスチャーも他の国と正反対だったりする文化を持っているだけに、言葉が通じないと本当に意志の疎通が難しい
ガラは悪いが、俺と話したがる。でもAはシャイで中々会話に加われず、通訳に専念する
そんなやり取りを数時間も続けていると、終に切符のチャックをしに車掌がやってきた
Aが車掌にチケットを見せると、車掌が眉をひそめ急に怒り出し、Aとの口論が始った
俺が事情を聞くもノープロブレムしか言わない。こんだけ車掌が怒鳴っているのにノープロブレムな筈がない。きっとアレだろう、俺のチケットが問題なんだろう
あーー2人とも、私のために争うのは辞めて~
その口論に例のガラの悪いインド人達も加わり、5人でいい合いが始まった。しかし、ものの5分で事態は収束、なぜか車掌と学生は握手
車掌は俺に切符を見せろといってくる。しかし、俺が持っているのは間違った切符。他の4人はいいからそれを見せろ言ってくる
結局交渉は失敗に終わったのだろうか?まぁどうせ間違った自分が悪いんだし、切符は新たに買いなおす予定だったので構わないけど
切符を車掌に見せるとまた「ふん 間違ってるぞ」と、ぼそっと笑ってそのまま言ってしまった。またか。。。こいつらは。。。
しかし、結局最後まで新しい車両の切符代を請求されることもなく、間違ったチケットのままガヤ駅で降りることができた
そもそも今回電車を載り間違えたのも、俺の寝坊と勘違いが原因だったのだ
インドで電車を間違って数時間のロスですむなんて正に奇跡である。インドは日本と違って、長距離電車は場所によっては一週間に一便しかないとか珍しくないのだ
ガヤ行きの路線はそんな事はないけど、それでも一日に2便程度しかないし、チケットも数日前に予約するのが定石だ
こうやってここにいられるのも、うざいくらいに親切で人懐っこいインド人のお陰である
とくに最後に世話になったAとは未だに連絡を取り合ってる。コルカタを訪れたときはまた会おうって
一日が無駄に終わってしまったが、いい友達もできたし、酒もただで飲めたし、俺は満足である
俺が間違った所から、まるでバトンをまわす様に、インド人からインド人へと、親切のバトンは俺をガヤまで送り届けてくれた
さあ、上手い事も言ったし、そろそろお暇させていただきます